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厳しい状況のときにこそ真価が問われる「理念の力」~ある管理職の言葉~

経営のヒント
2022.11.18

今回は、企業にとっての理念の力について、考えてみたいと思います。

 

■理念とは?
理念についてはいろいろな定義があると思いますが、私は『その会社の土台となる考え方=理念』、『その理念を実現するために重視する行動=行動指針』と定義しています。

例えば、アマゾンドットコムの場合、理念は『地球上で最もお客さまを大切にする企業になること』、行動指針は『Customer Obsession:お客さまを起点に考える』、『It’s still Day One:毎日がはじまりの日、常に「Day One」の気持ちで行動する』というものを掲げていて、それらが社員の行動の基準となり、『地球上で最も品揃えが豊富な企業となる』というビジョンの実現に向けて邁進しています。

いわば、理念や行動指針は、会社の考え方の基準となるものであり、仕事上における判断のよりどころになるものと考えています。

 

■理念と行動指針をつくった中小企業のお話 ~管理職の印象的な言葉~
ある中小企業から『企業理念』をつくりたいという相談を受けました。

背景としては、組織の規模が以前に比べ大きくなり、部署間の連携がうまく取れなくなり、衝突が増えている状況。それぞれの部署の判断基準にズレが生じていました。そこで会社としての判断基準をつくるべく、企業理念づくりに取り組みたいということでした。

 

1年ほどかけて、経営者や幹部、管理職の方々を交え、企業理念と行動指針を作成。そして、その浸透策として、
●4半期ごとに行動指針の実践のための目標設定
●週に1度、理念や行動指針の実践を課ごとに振り返る「理念ミーティング」
●月に1度、社長・幹部・管理職が集まり、各課の理念ミーティングの実施状況や気づきの共有
を行うことにしました。

 

浸透策実施のリーダーとして動いてもらうという意図で、理念や行動指針の作成段階から管理職の方々を巻き込んだことが奏功し、比較的順調に行動指針の浸透が進んでいきました。

導入当初、コロナの影響もあり、例年に比べ、受注が減っている状況だったのですが、コロナが少し落ち着き始めると、これまで対応したことがない受注の増加により、体制面で危機的な状況を迎えました。

ものすごく忙しい状況が続いていた中でも、行動指針の目標設定や理念ミーティングについて、工夫をしながら継続していました。

 

そうした中、先日の月1回の理念ミーティングの実施状況・気づきの共有会において、ある管理職からこんな発言がありました。

「理念や行動指針に対する行動が少しずつできるようになってきたことで、今回のこの大変な状況を乗り越えることができたのだと感じている。」

この会社の理念は「自然とこぼれる笑顔をつくる」というもの。そして、行動指針は「自分やまわりが笑顔になるための行動をすること」。具体的には、あいさつをすることや、まわりを気遣って声掛けをすること、協力をすること、支え合うことなどです。

 

以前であれば、大変な状況になると、当然ではあるのですが、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまい、まわりのことを気にして行動するということがなかなかできていませんでした。

しかしながら、浸透策を実施し続けることで、まわりのことを気遣った行動が少しずつ増え、この大変な状況においても、その行動を引き起こすことができていたのです。

そして、その管理職の方は、こう続けました。

「厳しい状況の時こそ、理念が大事になる。」
「今後も引き続き、力を入れて浸透策を実施していきたい。」

とても頼もしい一言でした。

 

※以下については、ご興味のある方にお読み頂ければと思います。

 

■厳しい状況のときこそ理念が大事になる ~タイレノール事件~
この管理職の方の言葉を聞き、思い出したことがありました。それは、ジョンソンエンドジョンソン(J&J)のタイルノール事件のお話です。

 

1982年、世界を代表する製薬メーカーのJ&Jの看板商品のタイレノール(解熱鎮痛剤)に毒物が混入され、シカゴで7人の方が亡くなるという事件が起きました。

J&Jがそこで取った対応は、採算を度外視して市場に出ているすべてのタイレノールを引き上げるということでした。

その後、模倣犯が出て、こちらも世界を代表する製薬メーカーのブリストルマイヤーズのエキセドリンというJ&Jのライバル商品に毒薬が混入される事件が起きました。そこでブリストルマイヤーズは、事件の起こったコロラド州のみで製品を引き上げるという対応を取りました。

 

その後、両社とも異物混入を防ぐパッケージの開発を行い、市場に商品を再投入しました。結果はどうなったかというと、J&Jは売上が伸びましたが、ブリストルマイヤーズは売上が伸びませんでした。

この結果の違いはなぜ起こったのでしょうか?J&Jは、採算を度外視してお客さまを守る会社だということが、世の中に伝わったからだと言われています。

 

それでは、なぜJ&Jは、採算を度外視して市場にある製品をすべて引き上げるという大きな決断ができたのでしょうか?それは、理念をとても大切にする会社だったからです。

J&Jには、社是があり、根幹部分にあたる会社の存在意義には「自社の医薬品・医療機器を通して、世界で苦しむ人たちを助けるために存在する」と書かれています。

今回の事件で、その対応方法を協議するための緊急の役員会議が開かれたのですが、結論が出るまでにほとんど時間はかからなかったと言われています。それは、役員に理念と存在意義が徹底されていたからでした。「自社の商品が人を殺しているという事実に耐えられない。そのことをなくすためには、市場から自社の商品が消えなければならない」と考えたのでした。

 

どんな会社にも大変な状況や危機的な状況が訪れます。その状況を乗り越えられる会社かどうかの大きな部分に「理念」があることを実感させられた管理職の言葉でした。


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