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「品がある」の一定義は、「欲望への速度が遅いこと」

今週の「言葉」
2023.02.24

-楠木健氏『リーダーの教養書』より

 

今週の「言葉」は、多くの有名企業で社外役員を務め、自らは経営の競争戦略の分野で活躍する楠木健さん(経営学者、一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻教授)の言葉です。出典は『リーダーの教養書』(幻冬舎文庫)です。この言葉は本書所収のライフネット生命創業者で有名な出口治明さん(立命館アジア太平洋大学学長)との対談に収められています。

 

“思考力”の根源的な磨き方

 

楠木さんと出口さんの対話では、“リーダーになぜ教養が必要か”が語られています。

この言葉の前段では、「真の教養とは…」「品格のあるなし」「本当に品格のある人は…」など興味深い話題で盛り上がっています。

その対話の中で今回の言葉を拾ったのは、次の楠木さんの説明の共有が必要です。

「言い換えると、即時即物的にではなく抽象度を上げて物事を理解しようとする姿勢ですね。これは教養の有無と深く関わっていると思います、目の前の具体的な事象に対して「これは要するに何なのか」と考える。これが抽象度を上げるということですが、それは同時に思考の汎用性を上げるということでもありますね。」(出典:『リーダーの教養書』)

 

即時即物的に考えるとは、「例えば「フィンテック1時間で早わかり」のような本から得た知識は、フィンテックについては有効でもその汎用度は低いわけです。それと反対に、抽象度が高いがゆえに汎用性も高い知識が教養ですね。」と楠木さんは語ります。

 

こうした即時即物的な学びの姿勢の危うさを指摘したのは、私の知る限り孔子が最初ではないでしょうか。つまり『論語』にある次の警句。

「子の曰わ く、学んで思わざれば則ち罔し。思うて学ばざれば則ち殆うし。」

(『論語』為政第二ー十五)

▼現代語訳(金谷治訳註『論語』岩波文庫による)

外から(講師、先人などの第三者)から学んでも自分で考えなければ、物事ははっきりしない。考えても学ばなければ、独断に陥って危険である、との意。

 

「早わかり」「1時間でわかる!」との誘い(いざない)は頗る人の心をそそりますが、所詮数時間で人々が会得してしまうほどの知識でしかない、ということです(無価値、とまでは思いませんが…)。仕事で言えば、担当者レベルならばそうしたスキル、ノウハウ知識は有効な場面もあります。しかし、リーダーの教養とはそれでは済みません。世の中は複雑であり、会社の経営(マネジメント)ともなれば、人間の複雑性、非合理性もすべて統合して考え抜けなければなりません。自然科学には答えは一つだとしても、経営という人間を扱う社会科学の分野では答えは殆どの場合一つではないのです。

 

マネジメントにおいて、その父ドラッカー先生はマネジャーたるもの、「真摯さの欠如は組織を衰退させ、許されない」と語ります。本クラブでも再三ご紹介していますが、その“真摯さ”とは原文によれば“integrity”という単語が使用されています。これには、integrate

という動詞の類語があります。統合する、統一する、まとめる、吸収する、合体させる、調和させる、人種的差別を廃止する、差別を廃止する、総和を示す、(…)積分する、などの意です。或いは、integral(完全体をなすのに)不可欠な、必須の、完全な、整数の、積分の、との意)という形容詞もあります。

 

つまり、リーダー、マネジャーに不可欠な真摯さとか誠実さ、或いは『論語』で言うところの仁・義(この二つを併せ持って“徳”と言います)に該当するリーダーの人間性、人格の形成にはその完全を目指して教養を広げ深めることが必要で、複雑なあらゆることを「統合する」学び方が必要であるということです。ゆえに『論語』の「早わかり」を狙ったかもしれない?『大学』ですら次のようにあるのです。

 

「物に本末あり、事に終始あり、 先後する所を知れば則ち道に近し」あるいは「その本乱れて末治まる者は否(あら)ず」とあります。現代語に訳せば「どのような身分にある人でも、我が身をよく修めることがあらゆる物事の根本であり、その根本が出鱈目であるならば、いくら手段や知識を得ようとも末端が治まることはない」との意です。

 

真の教養を得るためには、改めてこの「本末転倒」は許されない。人間としてどのように生きることが最善なのかを究める人間学としての「本学」が先、生きていくために(仕事で成果をあげるために)必要なスキルは後とした「本学と末学」の関係を知り、リーダーとしての成長の道を歩む吾人が増えること、切に願っています。そうすれば世の中、もっと色彩を帯びた、希望にあふれたものになると信じて。


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