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他社の不正調査報告書を会社幹部の学びに活かす

経営のヒント
2023.08.22

現在マスコミ等で連日報道されている中古車販売・買取、整備事業等を行うB社。

同社から2023626日付公表の「調査報告書」には、経営幹部が自社を振り返り、よりよい「いい会社」になるための経営のヒントが詰まっていると考え、一部抜粋しながら要点をお伝えしたいと思います。

詳しくは、「B社 調査報告書」でネット検索いただくと、第三者委員会による調査結果を閲覧でき、損害保険金請求に関しての、整備工場でのフロント・板金・塗装の各段階での様々な不正行為の実態や原因分析の詳細を知ることができます。

 

■委員会による実態調査結果の概要

委員会は実態把握のため、同社全国30ヶ所の板金・塗装工場の従業員にアンケート(対象390名、回収率約98%)を実施しました。それによると、不正への関与状況は、「関与したことがある」が約27%104名)、関与理由で最大なのは「上司からの指示」、原因では「会社が売上向上を最優先としていたから」「上司からの不正な指示に逆らえない雰囲気があったから」が上位を占めています。

また、2021年実施の板金・塗装案件約45,000件のうち、無作為抽出した約2,700件に対する第三者検証(サンプルテスト)では、実に約44%(約1,200件)で何らかの不適切な行為が疑われる案件だったことが判明しています。いくつかの工場では60%を超えています。

 

■原因分析

不正の原因として、調査報告書の中では大きく5点が挙げられており、本コラムではそのうちいくつかについて要点とコメントをしたいと思います。

 

1.不合理な目標値設定

同社では車両修理案件1件当たりの工賃と部品粗利の合計金額にノルマ設定をし、達成を厳しく追及していました。そもそも車両の損害の程度は直接的にはコントロールできない中、ノルマ達成のプレッシャーなどを背景として、他の原因とも相まって、過大または架空の修理費用の見積り等へと走らせてしまったようです。

損害の程度が大きい車両ほど売上・粗利が大きいとするならば、「台数」×「案件単価」という要素分解のもと、車両引き受け台数を増やす、(集客策により)損害の程度の大きい案件割合を高めるといったことが営業努力としてまっとうであったと思いますし、一歩引いて見ると、適切なKPIの設定(≒努力・工夫の方向性の設定)がいかに重要かを示唆するものであると思います。

 

2.コーポレートガバナンスの機能不全とコンプライアンス意識の鈍麻

この原因項目では、次の3点が挙げられていますが、端的に、会社が本来守るべき法的ルールはおろか、社内の“独自憲法”である就業規則すら遵守・尊重されていなかった実態が浮かび上がっています。

(1)内部統制体制の不備

(2)適正手続を無視した降格処分の頻発

(3)コンプライアンス意識の鈍麻

取締役設置会社であるにも関わらず会社法上の要件を満たす取締役会は開催されず、当然議事録も存在していませんでした。内部統制体制のあり方についての検討や意思決定もされず、それ以外の重要事項についても会社としての意思決定がなされていなかったのでしょう。また、降格人事が頻繁に行われていたところ、懲戒を行うに当たっての社員の弁明機会を与えることも降格理由の丁寧な説明もほとんど行われず一方的な通告であったようです。社内の牽制機能や自己統制する力がなかったということでしょう。

 

3.経営陣に盲従し、忖度する歪な(いびつな)企業風土

4.現場の声を拾い上げようとする意識の欠如

繰り返し報道されている店舗前の街路樹損壊行為の原因ともなっている「環境整備点検」では、本部の幹部陣が工場・店舗を訪れ、トイレ清掃が行き届いているか、備品が所定位置に並べられているか等、外観の美しさばかりの点検を行い、それらの結果も受けて強権的な降格処分が運用されていました。現場からの声が上がってこないように押さえつけ、かつ、不適切行為の内部告発のもみ消しも行われていたとのこと。調査報告書は「常に経営陣の顔色をうかがいながら、体裁を取り繕うことばかりに気を遣い、間違っても経営陣の意向に表立って異を唱えることなどしない姿勢となっていったのは、当然の流れといえる」と述べています。

従業員がお客様の方を向き、価値・満足を高めるための自主性や独自の工夫を引き出す方向とはおよそ真逆の強固な仕組みを作り上げていました。

 

5.人材の育成不足

調査報告書によると、急な配置換えをしたうえで十分な教育がないままに業務を任せる、工場内の一部業務の浅い経験のままに工場長など管理的立場につける、日本語能力の乏しい外国人作業員を十分な指導なしに業務に従事させるなど、お客様の方を向いてサービスの品質を維持・向上させる意識が低いと言わざるを得ず、こうした状況も不正行為を見過ごす、むしろ拡大する要因になっていたようです。

一般的に、店舗型ビジネスの成長には商圏拡大=新規出店が重要となりますが、多くの場合、人材面がボトルネックとなります(特に拠点長とスタッフの人数確保)。同社では数年内での急激な店舗・工場の出店拡大を押し進めたようですが、出店戦略と人材戦略の整合性が重要であるところ、「数字(効率性や業績)」ばかりを追いかけ、「人への投資(質と量の確保)」が不十分であったのだと思います。もっと言えば、根底にある、経営陣の「従業員観」が「業績を作る道具としてしか見ていない」とすら思えてきます。

 

以上が、調査報告書内で原因として述べられていたことです。

読者の皆さまはお客様第一の考え方で企業文化の醸成や施策実施、社内管理の体制づくりをされておられますが、あらためて社内点検や学びを得る機会になっていただければと、報告書内容のご紹介を中心に書かせていただきました。


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