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“徒労感”ではなく“疲労感”を

経営のヒント
2023.12.28

皆さまは、ご自身あるいは部下の「疲れ」についてどのようなことを考えますでしょうか。

金属“疲労”とのアナロジーで何かイメージをお持ちの方もおられるかもしれませんし、もう少し具体的に、業務の能率や効率の悪化、ヒューマンエラーも引き起こすような、長時間同じ姿勢であるとか同一の作業を繰り返すなどでの身体的な諸症状(筋肉痛、肩こり、集中力の低下など)を想定される方も多いのではないでしょうか。

今回は、労働科学での領域の知見も一部引用(*)しながら、「疲れ」というものにフォーカスを当て、経営実務のヒントとなりそうなことをお伝えできればと思います。

多くの人は、何らかの活動を継続しておこなっているとき、またその活動に精神的に集中して行ったが期待した成果が得られずに終わったときなどに経験する心理状態を「疲れ」という言葉で表現するようです。心理学的には「活動へのモチベーションの減退を基本とする“認知現象”」。似たような概念(単語)として「疲労」がありますが、これは疲れを体験する人々に共通した現象として科学的に理解する必要性から生み出した科学概念であり、ゆえに、「人間の疲労の本質は疲れにある」ということ。

意識しておくべき大事なポイントの1つは、心理現象である、ごく平易な言い方をすれば、メンタルの領域が大きいということです。「運動で疲労物質がたまる」「身体が物理的に痛い」などでイメージされるような、冒頭で述べた身体的な諸症状だけを「疲れ」(ごく一般的な呼称では「疲労」)とだけ捉えていると、会社組織の運営上、落とし穴があると思われます。

次に、「疲れ」という心理現象の特徴として仮説的にいわれていることには次の点があります。このうち、今回は5.と6.に触れつつ述べたいと思います。

1.疲れは自覚される
2.疲れは抑制されうる
3.活動の疲れは別の活動への動機を生む
4.活動を行うことによって前の活動による疲れは低減・消去される
5.疲れは感情を伴うことがある
6.疲れは体験される自己評価である
7.疲れは人間を活動主体から個人に変える

「5.疲れは感情を伴うことがある」に関連して

労働は一般的には、不快な感情を伴うことが多いといわれています。時間的拘束を始め、様々な拘束や制約のもとで労働活動を行わなければならないからです。ですが、快い感情を伴うことも多く、場面としてたとえば、「ある業務を積極的に行いたい動機があり、その業務遂行を通じて高い成果を生んだとき」「自分の活動や成果に対して感謝や賞賛の言葉が与えられたとき」「自分が想定した以上の能力が発揮された、あるいは、多大な努力を払ってきたと自己評価するとき」などです。同じ「疲れ」でも、快い感情を伴っている場合は、次回に同じような内容の業務を行うことへの積極的な動機を生み出します。

「6.疲れは体験される自己評価である」に関連して

意識すべきもう1つの大事なポイントは、「疲れには、活動の内容や動機、成果などと自分自身との関係に関する“その人自身の評価”が関わっている」ということ。つまり、仕事や職場への嫌悪感、適応していないと感じる自己評価、その仕事や経験が無益であると感じる自己評価などがあり、現実から逃避したい状態だと、より「疲れ」が生まれるということです。

上記を踏まえて本稿のタイトルに戻りましょう。

「徒労感」は、自分自身で設定している活動目標が充足できないにも関わらず、その行為・業務を続けなければならないときに生まれるものといえそうです(「徒労」の辞書的意味は、無駄な骨折り、無益な苦労)。一例を挙げると、その人自身が「今の部署・職場で、仕事を通じてこういうことを身につけたい」(活動目標。動機にもつながる)と思っているにも関わらず、会社・組織側はその人に(その人が想定する)活動目標とはほぼ関係のないことをさせ続ける場合です。この場合であれば、活動目標を適切に誘導する、本人希望なども聞き、人事異動など適材適所で配置するなどを通じて会社の目標の本人の目標をリンクさせるなどもあるでしょう。

「疲労感」は、より適切には、「快い感情を伴った疲れ」(身体的な疲労は問わない)ということです。前述の通り、これは次の活動への積極的な取組み姿勢も誘発するでしょう。

会社として、社員の心理的側面までも考慮した「疲労マネジメント」(特に本稿では、“疲れ”マネジメント)を意識いただくのは、今後の一手を考えるヒントになるのではと思います。

なお、7つの特徴のうち、本稿で触れられなかった点はまた別の機会で述べたいと思います。

()本稿では、斉藤良夫.人間の疲れとは何か:その心理学的考察.労働科学 88巻 1(13)(24)2012.から、特に各箇所で断らずに一部引用しております。


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