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経営の価値体系 持続的成長企業に共通する思考の三階層

経営のヒント
2024.06.13

前回に寄稿したコラムの続きです。
▼前回「変革の力とは、まず思想、そして理論と実践の葛藤にある

組織は目に見えないPhilosophyを失うとモラール(士気)を失う

前回の内容を要すれば、企業組織が衰退や倒産の危機に陥る萌芽は、常に外部環境にあるのではなく、自ら変革を行わなくなること、つまり内部にその萌芽があると申し上げました。

マネジメント(=経営)の父、ドラッカー先生の言葉を再掲すれば、下記の通り。

「組織が生き残りかつ成功するには、自らがチェンジ・エージェント、すなわち変革機関とならなければならない。変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである。」(『ネクスト・ソサエティ』2002年刊)

 

「今日成功している企業の多くが、一世代前のイノベーションの成果を食いつぶしながら安逸を貪っている危険がある」(『現代の経営』1954年刊)

さらにこのことは歴史的な真実でもあることから帰納的に考えて経営の原則とみなして良いと私は捉えています。
因みに20世紀最高の歴史学者、アーノルド・トインビーは『歴史の研究』の中で「創造的な人間が、ある事業を成就したのちにおちいりがちな受動的な錯誤は、昔大いに努力したから、『その後はずっとしあわせに暮す』資格があると夢想して、愚者の楽園で『漕ぐ手を休める』ことである」と言い放っています。
枚挙にいとまがありませんが組織の衰退や崩壊の端緒は常にその組織の“慢心”によるものです。組織とは単なる個人の集合ではなく共通の目的と価値観によって束ねられ、協働の意志と意欲に満たされた集合体です。衰退の道、そうならないために私たちが常に見失ってはならないこととして、最近個人的に提唱している「思考の三階層」をご紹介します。前回のコラムで提唱した解決策を改めて構造的にお示しするものです。

特に全体を統べる経営者、リーダーの方々にとっては、すべての意思決定やプロジェクトの遂行に至るまで、以下のことが思考として自己に内在しているかが決定的に重要だと感じています。(これが既に無ければ仕事は遅かれ早かれ無味乾燥な“作業”に墜ちていきます。)

▼経営における実践的思考の三階層(3つのP

①(何を美しいとするか、何のために生きるかの価値判断軸としての)思想・哲学(Philosophy
②(物事(問題)に向き合う、或いは課題を設定する際の)考え方・物事の見方(Paradigm
③(より良い成果をもたらすための具体に落とし込まれた)政策・具体策(Policy

経営は実践で成果をあげ、最後に結果を出すものです。ゆえに多くの方は「実践が大事だ」、と語ります。
それはそうなのですが…、自ら変革を行えなくなっている組織は何かが常に足りない。しかし皆一様に何かしら目の前のことを実践しているように見えます。忙しく働いているように見えます。
足らないのは何か?上記①②が決定的に足らないのです。本田宗一郎さんの言葉を借りれば「理念・哲学なき行動(技術)は凶器であり、行動(技術)なき理念は無価値である」ということでしょうか。“専門バカ”ばかりが増殖されているとされる現代社会の現象でしょうか。行動と実践には常に「意識、認識」が伴います。それが行動の深さと広さを決定づける原点です。
全体的、総合的に物事や人間を捉える力(全体と総合を認識するがゆえに自己の不完全さを認識する“integrity”の力)が失われているように感じます。その現象としてリーダーの伝える力も衰えているように思えます。

Philosophyは自己で修養する教養が必要です。より良く生きること(well-being)自体を理念やパーパスに掲げる企業が増えていますが、生きる事とは哲学そのものです。哲学を体系づけるのは思索と実践の反芻です。実践とは人と関わること、向き合うこと、そして手法としての対話が哲学を構築していくのではないでしょうか。
ソクラテスは勇気ある強靭な戦士であったと同時に多くの対話、論戦を為しましたが一冊の書も残しませんでした(弟子のプラトンによってその言説は残されました)。孔子の『論語』も弟子との対話によるものです。また、政治や事業を行うリーダーよりも2000年以上前に生きた先人のほうが我々よりも人間の全体、社会の全体を捉えているように映るのはどういうことでしょうか。

最後にスペインの哲学者、オルテガ・イ・ガセットの代表作『大衆の反逆』(岩波文庫版)の言葉を借りて、志高きリーダーの皆さまへの問いといたします。

「人間に対して為され得る最も根本的な区別は次の二つである。一つは自らに多くを要求して困難や義務を課す人、もう一つは自らに何ら特別な要求をせず、生きることも既存の自分の繰り返しにすぎず、自己完成への努力をせずに、波の間に間に浮標(ブイ)のように漂っている人である。」

“なれる最高”を目指す自己変革の組織であるために、人間としてオルテガの言うところの前者(自己修養、修身の人)である個人が存在していることが必須条件です。
philosophyから始める思考の三階層、哲学と実践的理論なしに行われる具体策に、高い成果は望めないと切に感じるところです。それは繰り返してはならないことです。最後に歴史から導き出される原理原則をもう一度申し上げます。

国家も組織も人間も、目に見えるものだけを信じて、目に見えない価値(哲学・価値観)を見失うと、生きては往けない。


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