この言葉は、私の父親の言葉です。…特別有名な人ではありません。ある時、お酒を呑みながら漏らした言葉でした。彼はコンピュータのエンジニアをやっていました。とうに80を過ぎた彼が扱ってきたコンピュータといまの生成AIに代表されるコンピュータとでは、できることがまるで違います。
彼の時代はCOBOLというプログラムコードによってコンピュータが動いていました。つい最近まで、プログラムコードは人間が書くものでしたが、いまでは、生成AIに書かせていたりします。人間が命令を書いてそれに従うのがコンピュータですが、自ら学ぶ機能を身につけたAIによって革命が起きています。
それでも私たちの認識は、命令すれば動いてくれるコンピュータ、です。そのことを「いっしょに徹夜してくれる」と人づきあいが得意ではない父親は表現しました。誰かに無理なお願いをすれば気分を害するかもしれない。だけど、感情のないコンピュータならその遠慮はいらない。それなのに、感情のないコンピュータに対して、徹夜「してくれる」と思ってしまう。どこか矛盾しているけど妙に納得してしまうところがあります。
私たちは、感情を持った社会的な生き物です。手伝ってほしいという期待を持っているのだけど、それが裏切られるのが怖かったり、ときどき、期待を裏切られ、腹を立てたりもします。私の父親は、きっと、「これを明日までに仕上げてほしい」と命令されることが多くて、嫌な気分になることがあったのでしょう。「こっちは機械じゃないんだ」という風に。
もしかすると、ハイハイと答えを返してくれるAIになれてしまって、人間への無頓着さが増していくかもしれませんね。徹夜「してくれる」とあたかも感情があるかのように機械を扱うのに、人間に対しては、そのことを忘れてしまうのは、ちょっと怖いことです。
部下に思いが伝わらないと思っているリーダーも多いと思います。自分の言動が命令のようになっていないか、分かってくれて当然と思っていないか、振返ってみてください。AIによって便利になる一方で、ますます、感情を大切にすることが求められていくのではないでしょうか。
ちょっとした気遣いで、大きな違いを生むのが私たち人間だと思います。