今日は、経営における「ビジョン」の効能について、ある企業の事例を通して考えたことをお伝えできればと思います。
■ビジョンは決めなくても良いのか?
ビジョンとは、「先々の前向きなありたい姿」と定義しています。
経営者や経営幹部の皆さんと自社の将来について検討している中で、「自社のビジョンは?」と伺うと、ぼんやりとしたものしか出てこないということがあります。
ビジョンが定まっていない会社も多いという所感を持っていますが、果たしてビジョンを決めなくても良いのでしょうか?
弊社代表の小宮一慶は「散歩のついでに富士山に登った人はいない」という話をしています。これは「何となくでは富士山には登れない。登ろうと決め、だからこそ準備をして登ることができる」ということなのですが、その意味合いは、「決めないと成れない」、「決めるとその確率を上げることができる」ということを言っています。
経営で言えば、富士山はビジョンと言えます。
どこに行きたいのか?
どこまで行きたいのか?
小宮が言うように、決めていないとそこへ行ける確率は下がります。
そして、「ビジョンなき経営」=「なりゆきの経営」と言えます。
■A社は「なりゆきの経営」からどう脱却したのか?
これまでの私の経験から「なりゆきの経営」の特徴を挙げると、
・成長スピードが遅い
・成長率が低い
・利益が上がらない
・後手になりがち
・社員が成長しない
・不満を言う社員が多いなどがあり、
結果、会社のステージが上がっていないと感じています。
次の事例は、なりゆきの経営から脱却を図ろうとしている会社のお話です。
A社の経営者からの依頼は、お客様第一の浸透を図りたいということでした。その要望に応え、浸透を図る取り組みを数年行いました。その後、社長からこれまでの成果について分析してほしいという要望を受け、社員へのヒアリングを実施。
その結果、お客様第一については、「言われていることやっている」というレベルで、「自分から率先して」というレベルには至ってはいませんでした。
また社員に会社への要望や提案・意見を求めたところ、今ある不満(マイナス)をどうにかしてほしいという「マイナスをゼロにするもの」ばかり。一方で、お客さまに対してこんなことがしたいなどと言った「ゼロからプラスにする意見や提案」は、ほぼありませんでした。
そうしたヒアリング結果からお客様第一の取り組みがなかなか進まない原因を分析しました。結論として社内が「内部志向」になっていることだと考えました。
また、その要因が次の2つではないかと考えました。
①仕事が作業になっている。
社員の方々は素直な方が多く、言われたことはしっかりやるのですが、それ以上はやらない。本来、仕事は成果をあげることが目的。この視点や動きが欠けていました。
②ビジョンが示されていない。
考えてみれば当然なのですが、どこを目指すのかがはっきりしていなければ、前向きな意見は出しようがない。どこを目指すのかがはっきりしているからこそ、そこへ向けて「こんなことをやったらどうか」、「もっとこうしていきたい」という前向きな意見が出てくるのですが、どこを目指すのかが欠けていました。
そしてこの分析結果を社長伝え、ビジョンをつくることを提案し、プロジェクトメンバーを集め、そのメンバーでビジョンづくりを行いました。
そこで整理して決めた10年後のビジョンを全社員に社長から発表。その後、社員の方々に社長の話を聞いてどう感じたかということをヒアリングしたところ、もちろん不安の声もありましたが、「自分たちが今後、どのようなことに力をいれていけば良いかということがイメージしやすくなった」、「自社の強みを活かせば、もっとこんなこともできるのではないか」といった以前になかったお客さまや地域といった外部に対しての前向きな意見が出てきたことがとても印象的でした。
■会社のビジョンがなければ、社員は前向きなことを考えようがない
この事例を通して実感したことは、今までなかなか変わらなかった内部志向の考え方が、ビジョンを示すことによって変わる可能性を示したことでした。
「社員の前向きさに不満を持っている」、「自律自走の組織をつくっていきたいが、なかなか進まない」という声を聞くことも多いですが、もしかすると、ビジョンが示せていないのかもしれません。
そして、自社が内部志向になっていたり、成長率が低く、後手後手になっているというような特徴があるのであれば、もしかすると「なりゆきの経営」になっている可能性があります。なりゆきの経営を続けると組織が硬直化していき、ひいては倒産する可能性が高まります。
ビジョンをつくると内部志向から外部思考への転換点を手に入れることができ、社員の気持ちや意識が前向きに変わっていくきっかけになることを今日のお話を通して感じて頂けましたら何よりです。