先日、長年当社に貢献してくれている社員2名と台湾を訪問しました。今回も社員への感謝旅行の意味もあったのですが、台北で定点観察をしたいということがありました。
台湾が好きで、昨年は2回訪問しています。コロナの時期を除き、もう20年間くらい年に一度くらいは台湾を訪れ、ホテルも極力同じところにしています。
台北市内を歩いていると、以前とそれほど大きな変化はありません。いつものように少し雑然としているものの街には活気があり、八角などの、日本にはない香りがする飲食店が軒を並べています。現地の方は外食が主流なので、近所の人たちが、外からよく見える食堂で楽しそうに食事をする風景はいつも通りです。当社の社員は、夜市でカエルや蛇などの料理を食べたそうです。高層ビルも建設が進み、新しいホテルもできています。
今回の訪問でいつもと違ったのは、台湾で最も高いビルの101で、89階の展望台にはドジャーズの大谷翔平選手の「50-50」の記念ボールが、ガードマンたちに守られて展示されており、写真を撮りたい人の長い列ができていたことです。101ビルも日本のゼネコンが建て、89階までを30秒程度で上る高速エレベータも日本製と、それだけでも日本人として誇りを感じるのですが、大谷選手のボールの展示は日本人としてとても誇らしい気がしました。
そんな台湾の状況ですが、政治的には緊張感が高まっています。中国との関係です。今年1月の台湾総統選で反中国派の民進党の頼清徳氏が勝利したこともあり、中国は神経をとがらせています。前総統の蔡英文氏も民進党でしたから、統一を悲願としている中国は少なからずいら立っています。中国としては親中国派の国民党候補に勝ってもらい、統一へのステップを進めたかったのが、うまくいかなかったのです。
中国は南シナ海はじめ、台湾周辺での緊張感を高めています。中国の国内経済が不動産不況の影響もあり低迷しており、その分、国外に求心力を求める動きも高まっています。先日も中国海軍の艦船が台湾をぐるっと囲むような形で大規模な軍事演習を行うなど、挑発的な動きを活発化させています。
そうした中、台湾も国防を強化しています。最近も米バイデン政権から対空ミサイルの供与を受けました。4か月だった国民の兵役義務も1年に延長されます。蔣介石の業績を示す中正紀念堂の衛兵の交代パレードも、これまでの室内から戸外に変更され、これも国威高揚を狙った意味も含まれると考えられます。ただし、中国との兵力差は格段に大きく、米国の関与なしには台湾の防衛は成り立たないことは明らかです。
そう言った状況で、来年1月にはトランプ政権が登場します。「アメリカファースト」を標榜するトランプ政権ですから、台湾を見捨てないまでも、中台問題への関与を下げる可能性があります。先ほどのバイデン政権からの武器の供与も、トランプ政権発足前に、それを行いたいという、バイデン政権と台湾政府の思惑があったと考えられます。
1949年に中国本土での共産党との争いに敗れて蔣介石が台湾に来てから、息子の蔣経国により1987年に解除されるまで長い間戒厳令下での生活を余儀なくされた台湾ですが、それ以降は自由主義を謳歌してきました。台湾ののびのびとした雰囲気が長く続くことを心から願っています。
小宮 一慶