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マーケティングの考え方② 企業の存続とのつながり

経営のヒント
2020.12.14

今回はマーケティング②として、選ばれるためのQPSの値付けの部分と経営理念のつながりを見ていきたいと思います。

すなわち、QPSで選ばれること、及び継続的に企業が存続することを両立について です。

この記事から見ていただく人にもわかるように、この記事の前提つながりにも簡単に触れておきたいと思います。

 

目次

  1. 今回の記事の前提
  2. 中長期に存続するためのQPSバランスについて
  3. マーケティングはマーケティングの検討だけでは完結しない
  4. まとめ

今回の記事の前提

今回の記事の前提となる知識として、以下の2点について触れておきます。

 マーケティングのQPS

人が商品サービスを選ぶ基準は、QPSの3つの要素の組み合わせ・バランスであるということ。

前回のマーケティングにおいて触れましたが、QPSはお客さまから見た相対評価であり、それで競合と代替品に勝たなければ選ばれる(貢献する)ことはできないということです。

 

 経営理念に含まれる生成発展の3つの分解

以下の図にあるように、経営の目的である経営理念は「自社らしく、中長期的にお客さま・世の中に貢献する」と私は考えており、

・企業らしさ

・生成発展(中長期的にお客さま・世の中に貢献する)

に分解される。そのうちの生成発展部分については

①今、選ばれる

②中長期に存続する

③中長期にわたり選ばれ続ける

という3つに分解されるということです。

 

前回のマーケティング①の記事については、特に「今、選ばれる」にフォーカスしていましたが、今回の記事は「②中長期に存続する」についても触れていきたいと思います。

 

中長期に存続するためのQPSバランスについて

QPSでお客さまに選ばれるためには、Q+Sの水準をPよりも最低限高くする必要があります。また、自社の商品・サービスのQ+Sが自社のPよりも高いからといっても競合や代替品が更に良いものを低いPで提供していれば、選ばれることはありません。

では、今あまり選ばれていない状態の中で、選ばれるようにするためにはどうすればよいでしょうか。

 

自滅型コストダウンとコストリーダーシップ戦略の違い

QPSのうち、とりあえず短期的に選ばれようと思う際に即効性にあるものはP:価格を安くすることです。

QとSを改善するには時間がかかるからです。しかしながら、QとSを生み出すために必要なコストよりも低いP:価格を設定してしまうと利益が出ないことになります。

利益が大切と言いますが、順序としてはあくまでも売上が先になります。まずはお客さまで選んでいただけなければ話が始まらないからです。売上は貢献の尺度です。ただし、利益を得られるだけのP:価格をいただけるだけのQ:クオリティとS:サービスがなければ会社は存続できないと言うことです。

逆にQ:クオリティとS:サービスを上げると言うよりも、全体にかかるコストを下げることによってP:プライスを下げるという戦略もあります。Q:クオリティとS:サービスは変わらないがコストが安いので選ばれると言うやり方です。

これをコストリーダーシップ戦略といいます。このコストリーダーシップ戦略は、市場のシェアを上げて生産量を増やすことで製品一つあたりの製造にかかる固定コストを低減すること、及び経験曲線といって製造数が多くなればなるほど歩留まりが上がってくるなどの効果によってより低コストで製品が製造できるようになるといったコスト側の低減によって、競合他社よりも低原価による製造を可能にするという戦略です。

この単にP:価格 だけを安くして短期間で自滅するケースと、コストリーダーシップ戦略によって中長期的に優位性を築くケースとあります。

例えばユニクロは、一定のQとSを維持した上で効果的な設備投資、システム投資によって生産性を上げることで、競合他社に対して圧倒的な低価格で商品サービスを提供することを可能にしました。ライフウェアの提供というコンセプトでお客さまに貢献する(選ばれる)ということで他社に負けない戦略をユニクロは選択しています。

お客さまが認識してくださるQとSの価値以下のP:価格で提供しなければ、お客さまに選んでいただくことはできません。そしてそのP(=売上)がコストよりも高くなければ利益を上げることができません。

また、下の図のように自社がいかにPよりも価値のあるQ+Sを提供していたとしても、競合他社が相対的に有利なQ+Sを提供している場合には、競合他社が選ばれることになるでしょう。

ここで難しいことは、P(価格)は数値で示される客観的に明らかな水準であるのに対して、QとSについてはお客さまごとの主観による評価であるという点です。同じ商品・サービスであったとしても、お客さまによって高く評価いただける方とそうでない方がいます。(そのお客さまの主観的な評価水準が概ね似た傾向があるグループを選定するプロセスがマーケティングセグメントの考え方となります。)

なるべく多くのお客さまの主観によって選ばれるQ+Sの提供ができることが、お客さまの集合体である社会への貢献度合いを増やすことになります。

以下の図のように、QPSによるPが自社のコストを上回る部分が利益になります。QとSを高めて、自社のコストをPが上回る幅を広げることよって上記5つの利益部分をバランスよく実現しながら中長期に存続するということが大切なのです。

コストリーダーシップ戦略は、1つの商品サービスを提供するためのコストを下げることによって価格の調整余地を生むと言うことです。お客さま感じているQとSの部分についてPプライスが大幅に下回っていればそれは感動的なサービスを与えることになるかも分かりませんが、そこまでプライスを下げる必要もありません。

コストが低くできている分クオリティとサービスが満足できるプライスを提供することによる利益の生み幅が大きいと言うことになります。より付加価値が提供できている会社、つまりQとSが高い会社については利益率が高いといえます。

中小企業・中堅企業はQ+Sの向上を優先させるべき

私は中小企業・中堅企業はQ+Sの向上を優先させるべきと考えています。(製造業は特に。)

それは、コストリーダーシップ戦略を採用するための方法がことごとく中小企業・中堅企業に向かないからです。

コストリーダーシップ戦略を採用するためには、コスト構造を同業他社や代替品を提供する会社よりも有利にする必要があります。そしてコスト構造については、原則的には規模が影響します。コスト構造にかかる要素は主だったところでいうと以下の通りです。

・商品サービスにかかる固定費負担(固定設備の稼働率:固定費負担に影響)

・購買力による材料等の調達単価(ボリュームディスカウント:変動費に影響)

・ボリュームを促進させるプロモーション体制(販売量・生産量に影響)

特に、製造業やビジネスに何かの製造工程が入る事業(飲食業など)においては商品1つあたりのコストのかかり方が生産体制や調達量によって、コスト構造に大幅な差が出ます。

ここらへんのコスト構造の話は、あらためて記事にしたいと思います。

 

マーケティングはマーケティングの検討だけでは完結しない

結局、QPSのバランスをお客さまに選んでいただく水準に持っていくマーケティングという活動は、Pの要素が入っておりコスト構造とのバランスで企業の存続に影響します。

ということは、マーケティングの検討についてはマーケティングだけでは完結しないということです。

 

産業別の付加価値水準

もちろんこれは個別の会社の事業構造上の問題もあるため一概には言えませんが、業界別の生産性を見るとその事業における付加価値が明確になっていきます。

この数値は、Q+SをPとバランスさせる環境の厳しさを示していると言えるでしょう。

事業における付加価値と生産性を見る上で重要な指標としては一人当たりの付加価値という指標があります(一人当たりの付加価値=事業全体の付加価値÷当該事業にかかる人員数)。事業に関わる一人一人が生み出す付加価値の額をいます。この指標が大きければ大きいほどその人に対して支払う給与の原資にもなるわけです。(付加価値のうちどの程度を人件費に回したかを示す指標は労働分配率といいます。)つまり一人当たり付加価値、付加価値の創出額が大きい事業と一人当たりの人件費は相関していると考えて良いでしょう。

 

宿泊・飲食サービス産業の苦境

宿泊・飲食サービスの産業は、そういった意味では今回のコロナ禍によって根本的な構造変化を余儀なくされる可能性が高いことと想定されます。宿泊・飲食サービス産業は、一人あたりの付加価値が現状においても既に相当低い状況でした。(上記の図にあるように2015年度の内閣府「国民経済計算」をもとに日本生産性本部が作成した資料によると、一人当たり年間328万円の付加価値)

つまり、労働分配率(=人件費/付加価値額)が100%だったとしても、この産業に従事する人の平均年収は328万円を超えられないということです。

ただでさえ競争が激しく、Q+SとPのバランスでPがかなり低く抑えられてきたところに、三密環境のリスクということでQのディスカウント要因が入らざるを得ないためです。

中長期的に企業が存続するためには、お金(利益による資金の創出)があるだけではなく、変わりゆく社会環境の中で継続的に有能な人材を確保していくことが必要になります。

人手不足は構造的な問題で今後も継続していくことが想定されますので、一人あたりの人件費を上げていかなければ継続的な人材確保は難しいものと想定されます。単に人数を増やして業績を上げるだけでは、一人当たりの人件費=待遇を改善させることはできません。事業付加価値、生産性を意識して人の確保を実現し続けることも存続する上で非常に重要なポイントです。

 

企業の活動はマーケティングとイノベーションの連続体

結局、今選ばれるためのマーケティングを、企業が存続できるだけの利益を出せるPを考慮に入れて組織運営をしていくことが経営の実践であるわけです。

そして、その継続の中では、将来においてもマーケティング活動を継続していく必要があります。また、その中で既存の価値観を覆すイノベーションに発展していくこともあるでしょう。(そうしなければならないと思います。)

組織が存続する上では、お客さまの価値観の変遷と競争環境によって放っておくと下落していくQ+Sの相対的な価値を、マーケティングとイノベーションによって、改善・革新していく必要があります。

上記の図にあるように、現状の商品サービスを放置しておくとQ+Sが相対的に下落していくため、値下げをしなければ選ばれなくなり、結果として組織の存続がおぼつかなくなります。

故に、Q+Sの水準を改善していくためのマーケティング活動、Q+Sの価値提案を刷新するイノベーションを常に行っていく必要があるのです。

それこそが、経営の実践ということになりますね。

 

まとめ

①マーケティングはQPSのバランスであるが、Pが企業の存続を左右する

②中小企業・中堅企業はQ+Sを高める方向が向いている。Pのコストリーダーシップ戦略は難しい

③Pの要素がコスト構造とバランスで決まる以上、マーケティングはマーケティング単体の検討だけでは完結しない

④経営の実践は、マーケティングとイノベーションの連続である。そのためのヒトモノカネを整えるためのPの水準、利益を創出する必要がある


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