今年の春、ナフサ(粗製ガソリン)の輸入量が前年同月比で47%減少したというデータが公表されました。中東情勢の緊迫化により、従来の主要調達先からの供給が大幅に絞られた結果です。
ナフサは、プラスチックや合成樹脂、合成ゴム、そして塗料の溶剤に至るまで、石油化学製品のほぼすべての出発点となる原料です。「自社には直接関係ない」と感じる業種の方も、少し立ち止まって考えてみていただきたいのです。
たとえば、建設現場を想像してみてください。外壁塗装に使う塗料の溶剤はナフサ由来です。塗料が入手困難になる、あるいは価格が高騰すれば、塗装工程が完了できず、引き渡しそのものが遅れます。内装に使う接着剤も同様です。配管工事に用いる樹脂系の継手や防水材も、ナフサを原料とする製品が多く含まれています。一つの工程が止まれば、その先の工程もすべて止まる。工期の遅延は、違約金やキャッシュフローの問題へと直結します。
製造業でも、同様の波及が起きます。ゴム製のパッキンやガスケットが調達できなければ、機械のメンテナンスが滞ります。樹脂部品の単価が上がれば、製造原価が静かに、しかし確実に押し上げられていきます。
そしてもう一つ、見落としやすい影響があります。それが、需要の減退です。
取引先や顧客の工事・案件が材料不足で止まれば、そこに向けて商品を納める側の仕事も止まります。直接ナフサを使わない業種であっても、お客様の事業が停滞すれば、自社への発注そのものが減っていく。仕入れ値が上がりながら、売上も落ちる——この二重苦が、ナフサリスクの本当の怖さかもしれません。
このような状況を前にして、私がいつも思い出すのがBCPという考え方です。
事業継続計画の本質は、「分厚いマニュアルを作ること」ではなく、「起こりうるシナリオを事前に頭のなかで経験しておくこと」にあると思っています。リスクを一度でも想定しておいた経営者は、それが実際に起きたとき、うろたえる前に「次の手」を考えることができます。一方、まったく想定していなかった経営者は、驚きの処理だけで大切な初動の時間を失ってしまいます。
経営に大きな影響がないことを、心から願っています。ただ、祈ることと、備えないことは別問題です。
一度、ダウンサイドリスクとして最悪のシナリオを想定してみてください。その上で、準備できることは準備する。準備できないことについては、せめて心の準備をしておく。それだけで、いざというときの判断の質がまるで変わります。
うろたえないで済む経営者は、強いのです。
新宅 剛