どうしたら人は動くのか?
この悩みを抱える経営者の方は多くいらっしゃいます。ドン・キホーテの創業者 安田隆夫さんもそのお一人でした。現在はドン・キホーテを展開し、売上高2兆円を超えるPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の創業会長兼最高顧問を務めています。
安田さんはどのようにこの課題を乗り越えたのでしょうか。安田隆夫氏の著書『運』(文春新書)には次のように書かれています。
“一体どうすれば従業員たちに私の考えが伝わるのだろう?(中略)悩みに悩んだ末、開き直ったのだ。あれだけ教えてもダメなのだから、そもそも教えるという行為自体が無意味だと結論付けたのである。そして、「これでダメならきっぱり諦めよう」と腹をくくり、「教える」のではなく、それと正反対のことをした。「自分でやらせた」のである。それも一部ではなく、全部任せた。(P160)“
小売店は商品が「見やすく・取りやすく・買いやすい」ということが一般的とされる中で、安田さんは反対の「見えにくく、取りにくく、買いにくい」店を作るよう指示していました。現場の方は混乱し、安田さんの思うように店舗づくりは進みませんでした。その状況をどうにかしようとしていましたが結局どうにもならず、最後は丸投げに近い形で任せたとのことです。「教えるではなく自分でやらせる」と言うと強制的にという印象を受けますが、実際には「教えるのではなくお任せした」という形だったと考えられます。
“私の胸中と苦悩と不安は、並大抵のものではなかった。現場に全て任せるとは言ったものの、裏ではハラハラし通しだった。(P163)“
当時の安田さんの心境です。現場を信頼して安心して任せたという状況ではなく、本当に大丈夫だろうかと不安な心境だったことが伺えます。任せた結果、現場はどうなったのでしょうか。
“思わぬことが起こった。従業員たちは権限を委譲されたことで、自ら考え、判断し、行動しはじめたのである。(P162)“
“「任せたらちゃんと出来た」のである。(中略)彼らにはそれぞれ個性と得意技があって、まさに十人十様の色んなタイプの商売力を発揮してくれたのである。(P164)“
詳細は書かれていませんでしたが、現場の方は現場を良く知っているので「私だったらこうするな」「もっとこうした方がいいのでは」といった考えを持っていたのかもしれません。それまではトップダウン型だったためアイデアを実行することが難しかったものの、安田さんの判断により自由に動けるようになりました。それにより一人一人が自らの判断で実行可能になり、動き始めたのではと考えられます。
実際にドン・キホーテで働いていた友人に話を伺ったところ、「何を仕入れるかも自分の判断でできた。仕入れる時に単位を一桁間違えて大変なことになったこともあるけどね。」と笑って話していました。
経営者やリーダーは教えようとするよりも、「自分の考えを実行できる場を整える」ことが大切だと感じました。
“「個運」とは異なる「集団運」なるものを引き寄せたことを実感し、その後は確信犯的にこの「集団運経営」に磨きをかけていった。(P164)“
これまでは安田さん「個人の運」に頼っていたところから、今回の出来事をきっかけとして「集団の運」に広がったという実感を持ちました。そのため、安田さんは意図的にこの取り組みを広げ、ドン・キホーテの躍進に繋げていきました。
では、ドン・キホーテ以外の現場においても、とにかくお任せすれば動いてくれるようになるのでしょうか?私自身は、何かが欠けているような違和感がありました。ただ、次の安田さんのお話を知って、違和感は解消されました。
“いつも現場の人たちを最大限にリスペクトし、心の底から感謝している。その上で「お願い」をすれば、彼ら彼女らは意気に感じて、いかようにも動いてくれるものである。(中略)「皆さんは本当に素晴らしい。これまでの仕事に敬意を払う。心から一緒にやっていきたい。」と熱っぽく言われるのと、単に上から目線で、「頑張れよ、いい店を作れよ」とそっけなく指示されるのとで、どちらが盛り上がるかは、考えるまでもないだろう(p208)“
安田さんは、普段から現場の方を尊敬し、感謝を伝えていました。この信頼関係が基礎としてあった上で「任された」ために現場の方は動くようになったと感じます。
もし自分が現場の人間だとしたらどうでしょうか。
上司は、普段から尊敬と感謝の思いを込めて接してくれている。
その上で「あなたに任せる」と言われたら・・
私でしたら、率直に嬉しいと感じますし、その期待に応えようと思います。
人に動いていただくためには、
尊敬と感謝の思いを込めて、相手に任せる。
私自身この言葉を意識しつつ、日々実践していきたいと思います。
唐澤 恭平