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「新聞の読み方:経営における時間軸を踏まえたアンテナの立て方」

経営のヒント
2021.09.15

「今週の経済の動き」については、「今週の日経新聞の数字トピック30!」と合わせてお読み頂くことで、より理解が深まる構成になっております。

「数字トピック30」に記載している数字に関しては、※( )で番号を記載しておりますので、ぜひ参照下さいませ。

 

本日提供する内容は、「経営における時間軸を踏まえたアンテナの立て方」です。

ここ1年半以上世界はコロナに揺れています。ワクチンの進行とともに経済の再開を進められると思われる状況の中でデルタ株の猛威によって先行きの不透明さが増しています。

 

今週は、
・新型コロナウィルス関係のデルタ株の動きとワクチンの動向 ※(8)
・脱炭素社会に向け、供給先や取引先を巻き込んだ企業の取り組み ※(16) 

という世の中の流れを踏まえ、企業個別の動きの中から

・JALの3000億円の増資 ※(22)

・トヨタの取引先支援 ※(23)、(24)

を取り上げて考えてみたいと思います。

 

個別企業の動きとしてあるトヨタとJALで言えば不確実性の時間軸が異なる部分があります。

 

・トヨタの取引先支援・・・デルタ株によって来月4割減産の予定であることを踏まえて、取引先への発注量減少にともなう経営悪化に対して金融支援等の支援をトヨタが行う。※(23)、(24)

 

・JALの3000億円の増資・・・増資とは資本による増資であり返済義務がない資金調達をJALが3000億円実施する。

借入による資金調達ではないため、このことにより財務内容は棄損しません。※(22)

 

JALの自己資本比率(厳密には親会社所有者帰属持分割合=BS上の純資産から少数株主持分などを除いたもの)は42.4%(2021年6月末時点)であり、まだ安全水準であると言えます。

 

コロナ前の2019年12月末時点の60.9%と比べるとこの1年半で18.5%も棄損したことになりますが、これは損失による自己資本の棄損もさることながら借入を5000億円程度増加させたことも影響しています。

これらをコロナ収束までの時間軸と、その先の時間軸も含めて考えてみましょう。

 

【コロナ収束までの時間軸】
トヨタとJALの動きは共に、コロナ・デルタ株に関連する影響によるものではありますが、コロナはワクチンの進行や治療薬の進行、医療キャパシティの拡充によっていずれ収束に向かうことでしょう。その収束に向かうまでの時間軸を踏まえて、安全策をとり自己資本を棄損しない増資(エクイティファイナンス)に踏み切ったということであると考えます。もちろんJALは上場会社であるため、増資をすることは一株当たりの希薄化につながるため歓迎されるものではありませんが企業としての安全策に踏み切ったということです。

 

米国の主要航空会社3社が黒字化したということもあり、時間の問題で解消に向かう間のつなぎとしての資金調達と考えてよいでしょう。

今回のトヨタの取引先支援については、トヨタが取引先を含むトヨタのサプライチェーンを支える生態系を維持するための取り組みではありますが、今回の東南アジアのコロナが落ち着いてサプライチェーンが回復した段階で解消に向かうでしょう。

 

このようにコロナの問題については、時期は明確ではありませんが一時的な問題で解消が見えていると言ってもよいでしょう。
欧米のワクチン先行国において7割の壁と言われており7割以上の接種率の進行が進まない問題や、米国が未だ53%程度に接種率がとどまっていることなど予想以上にワクチンの接種率が上がらず、収束までの時間軸が長引くリスクはあるでしょう。また、コロナ自体が根絶するわけではないので、インフルエンザのようになんらかの形でワクチンの定期的な継続接種が必要になることも想定され、継続して新規感染者数の増加によって経済活動が制限される可能性も継続することでしょう。

 

このリスクの解消のためには、医療キャパシティの拡充が必要です。重症者をはじめとして重症になる可能性がある患者の受け入れ先が確保できなければ、現在のように欧米に比べて新規感染者数が少ない状況にあっても医療機関はすぐにパンクしてしまいます。政府は、政府は緊急事態宣言の解除に関する指標として、病床使用率が50%未満で、重症や中等症の患者数が継続して減少傾向にあることを条件としています。※(10) 医療キャパシティの問題は継続的に見ていく必要があるでしょう。

 

 

【コロナ後の時間軸】
一方で、コロナから先の時間軸で見た場合には、環境問題が特に重要な要素として挙がってきます。
特にトヨタのサプライチェーンとして生態系を構成している取引先企業群にはカーボンニュートラル施策によるEV化の波が襲ってきます。このEV化の波は温暖化ガス削減の実効性もさることながら、国際政治的な色合いが強いとも言えます。(欧州が自国に有利なEV技術を産業として盛り上げたい)
今回のコロナの影響が落ち着いたところで、10年もたたないうちに欧州ではガソリン車が売れなくなります。トヨタの取引先としては仮にトヨタがハイブリッド(HV)車や水素エンジン車を継続販売することによりガソリン車と類似の内燃機関(エンジン)を要する車の需要がある程度継続したとしても、販売数としては低下することは目に見えています。

少なくとも、現状と同じ規模での経営の継続はままならないと考えておいた方がよいでしょう。

 

また、トヨタ自身にもEV化や環境問題と同時に自動運転とシェアリングの波が押し寄せてくることになります。
現在においては自動運転は、車の利便性を高める程度で留まっていますが5Gや6G、AIの進化とインフラ整備に伴い完全自動運転化とシェアリングエコノミーが進展した場合には、車の販売台数そのものが激減することが見込まれます。現在の車の稼働率(一日のうち動いている時間の割合)は10%満たないと言われています。
これが移動手段として自動運転化しシェアリングで乗り合いで済むようになった場合には、自分で自動車を所有するというインセンティブが失われることでしょう。
仮に乗り合いになって車の稼働率が50%程度まで上がったとすると、単純に考えると車の必要台数が5分の1以下に低下することになります。
また、シェアリングが進むことによって、車の走行距離そのものが減少するためCO2削減にもつながる可能性があることからも、シェアリングの進行は避けては通れないのではないでしょうか。シェアリングエコノミ―全体の市場規模は2030年度に最大14.1兆円(20年度は約2.1兆円)になると試算されています。※(29) 

私たちの生活様式は、変化の途上にあり、10年20年先の時間軸で見ると自動車業界には激変が待っています。現状のままのトヨタ生態系の維持は不可能であると考えた方がよいでしょう。

 

JALについても、飛行機による移動はCO2の排出量が大きいため、欧州では飛行機ではなく電車などを活用した移動へのシフトが一部で起こっています。とはいえ、遠距離の移動について、CO2削減のためにそれをなくそうとなるかというと需要の減退レベルはほぼないのではないかと思われます。むしろCO2の排出量そのものを減らす技術の開発が進むことでしょう。

 

今回の考察からの学びとしては、
新聞を読む際に、自分・自社の経営の時間軸を想定することによってアンテナに飛び込んでくる記事の内容が異なっていきます。自分や自社のことに関心を向けて新聞を読む際にも、時間軸を伸ばしてみると様々な記事に関心が向けられることになると思います。中長期の時間軸で経営をとらえる必要があるということ。コロナへの対応だけでなく、その先の時間軸を見ていくと環境問題、自動運転・デジタル化とつながっていきます。

 

時間軸を長くとると、自動車部品、特にガソリン車のみに用いられる部品を提供する会社は中長期的な大幅な事業転換が求められるということです。
一方でJALなどの航空業界においては、一時的なコロナの先には回復が待っていることでしょう。

 


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