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経営の原理原則「資源の最適配分と賃上げについて」

経営のヒント
2021.12.06

「賃上げ要請3% 具体策弱く」

歴代の首相の賃上げに対する発言と、賃上げの実現についての実績を取り上げる記事がありました。
成長と分配の好循環、と言う考え方の中で非常に重要な論点と考えたので個別の記事として取り上げました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出典:日経新聞11月27日(土) 総合3

 

 

■成長と分配 30年の総括

 

成長と分配の好循環について分解して考えていきましょう。
成長とは何でしょうか、これは言うまでもなく付加価値の成長です。企業は、付加価値を上げるために存在していると言っても過言ではありません。企業が上げる付加価値の合計が日本のGDPのかなりの部分を占めます。企業が上げる付加価値の中で人の労働に対して支払われた部分が賃金となるのです。この賃金から個人消費が生まれて、日本ではその個人消費がGDP全体の55%を占めます。

 

分配とは何でしょうか、これは賃金を始めとした、社会を構成する人たちへの付加価値の配分です。

つまり、両者は付加価値でつながっています。付加価値を生み出せなければ本来分配する原資はありません。
もちろん、企業経営においても国家経営においても、借り入れと言う考え方があります。お金を借りて、給料を支払うと言う考え方もあります。しかしながら、この場合融資をする金融機関は将来を返済原資を踏まえて融資するかどうかの判断をします。

 

日本の場合には、政府が政治が自分の意思で資金調達をします。つまり国債発行を行います。その回収原資は審査されていません。

だからこそ、GDPに対する債務残高が250%を超えていると言う現実があります。

国債は「財政法」によって使い道が決まっており、本来は公共事業に充当させる資金調達のためだけに国債を発行できるとしています。そのため、建設国債以外の国債は、特別に発行された国債であると言えます。

日本の財政は毎年、赤字続きである他、公共事業以外にも「補正予算」という形で財政出動し、予算を組んでいかないと国力が弱体化していく恐れがあります。そこで、「特例法」と呼ばれる法律を作り、特例の国債を発行して資金を集めていますが、実際は毎年のように特例債が発行され、これが同時に日本の借金を増やす要因になっています。一般に特例国債の発行は、財政法上では認められていないため、特別の立法(特例法)が必要とされます。2011年に起きた東日本大震災からの復興を財源とする「復興債」や歳入の赤字を補填するために、1年限りで発行される赤字国債(特例国債)も発行しています。

 

結果論になる部分はありますが、ここ30年間の日本の国家経営が非常にまずいものがありました。その結果として、GDPに対する債務残高が30年前の約60%から250%を超える水準に至ってしまいました。
今この時点から考えれば、通常の企業経営であればリストラクチャリングに取り組み借入金の水準を下げる必要がありますが、国家と言う軸で見ればそんなに簡単な話ではありません。
と言うことで、少なくとも借入金の返済による支出を考慮しない状態で、収支をバランスさせようと言うプライマリーバランスの黒字化と言う考え方が出てくるのは当然の話であると考えます。ただし、重要なのは十分に付加価値を生み出せる状態になってるかどうかと言うことです。

 

今の日本は、あまり儲からない企業が大量の借入金を抱えている状況と同じと言えるでしょう。
ただ、一方で大量の借入金を抱えているからといって債務超過の状態かというとそんな事はありません。それは日本における金融資産が充実しているからです。
借入金に見合う財産がストックされている状況と言うことです。しかしながら、生産性(≒一人あたりGDP)や収益性(≒GDP成長率)が非常に悪い状態であるともいえます。

 

日本と言う国の運営を経営として捉えると、借り入れをする場合の借り入れ先や、付加価値を生み出すための顧客と従業員がともに国民であると言う内部完結構造になっています。輸出入のGDPに与えるインパクトは輸出と輸入の差し引きで考えると数%程度と、大きくありません。
顧客と従業員を分離して考えられる通常の企業経営に対して、国家経営に関しては顧客でもある従業員でもある国民に対して、複雑なバランスを踏まえて戦略を実行し、あるべき将来像を実現していく必要があります。

 

 

■利益の5つの意味と株主資本主義のひずみ

 

マッチポンプ的に、賃上げや分配の推進を行いGDPを上げようとしても国家としての付加価値創出能力、生産性の向上が実現できなければGDPの成長は見込めません。

企業は、利益を上げてその利益を企業の存続はもちろんのこと、人件費の支払いや設備投資、研究開発、または株主還元に利益を充当させていきます。
弊社では【利益の5つの意味】と表現しており、①企業の存続のため、②未来投資のため、③従業員の待遇改善のため、④株主還元のため、⑤社会への還元のため としています。

そしてその利益の源泉は、付加価値ということになります。付加価値がここ30年で伸びていないということは、道理としては利益から払われる②未来投資、③従業員待遇改善(給与)、④株主還元、社会還元 が伸びていないということになると考えられます。

付加価値が伸びていない状況の中で、③の給与を伸ばすべく過去歴代の首相が賃上げについて様々な言及をして企業との対話を進めてきました。ただ、ここ30年程度の実績ではGDP(付加価値)が横ばいであるため、給与の水準も横ばいで推移しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

※出典:厚生労働省 「平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)」

 

しかしながら、配当や自社株買い等への株主還元は4倍に増えました。伸びない付加価値を、株主が収奪していると言っても過言ではない状態となっており、その分②の未来投資や③給与、⑤社会還元への分配が劣後している状況になっているということです。

 

企業に対する政府の働きかけは、利益の5つの意味のうち、従業員の待遇改善のための利益の使い方を促進するものです。
先ほど述べたここ30年の日本におけるGDP成長率や給与の伸びを考えても、日本の企業経営は全体としてはうまくいっていないと言わざるを得ないでしょう。

生み出した利益を労働分配に使っていれば、少なくともここ30年間で給料上がっていたでしょうし、労働分配率は向上していたでしょう。逆に、労働分配率が変わらなかったとするならば、付加価値の創出のために必要な未来投資としての生産性投資に使われてしかるべきでした。しかしそれも十分に行われず、結果付加価値がこの30年間ほとんど変わっていないと言う現実が生まれています。

 

日本の政策の問題もあるでしょうが、そもそも企業は個別に業績の改善を追求していくものです。それにプラスして政府からの適切な政策を求めるというのが本来のスタンスと言えるでしょう。

個別の企業において、賃上げも含めて人件費をどの程度の水準にするかと言う労働分配の考え方についてどのように考えていけばよいでしょうか。

 

私はコンサルティングにおいて、労働分配率の考え方をお伝えしています。

経営の、「会社の方向付け」、「資源の最適配分」、「人を動かす」、のうちの「資源の最適配分」に該当する検討要素と言えるでしょう。しかしながら、どの程度資源を最適に配分するかと言う事は、「会社の方向付け」やどのような経済的幸せを人に与えて「人を動かす」のかと言うことにもつながります。つまり、「資源の最適配分」を軸とした労働分配率の考え方は、経営の、「会社の方向付け」、「資源の最適配分」、「人を動かす」すべてに関連すると言えるでしょう。

株主から言われたので、株主還元を強化しますと言って、従業員の待遇改善のための原資を株主還元に回してしまっているとすれば、それは経営と言う仕事を十分に実現していないと言えるでしょう。

 

 

■社員・従業員の重要性と採用マーケティング

 

将来のマーケティングとイノベーションの質を高めるためには、それを実行できる人材を社内でしっかりと確保することが必要です。副業や外注等によって調達する方法もありますが、やはりマーケティングとイノベーションを生み出すコアの人材は会社のミッションやビジョンに対して心からの共感を持つ意味と意識のコミニケーションの両方が成り立つ人材である必要があります。
従業員の待遇改善を推進する、付加価値を上げて労働分配の水準を上げることは採用競争力につながります。

もちろん給与・待遇だけで人は労働環境を選ぶわけではありません。

 

人材採用についても、マーケティングと同じくQPSの観点で見ていく必要があると考えています。採用のQPS、ですね。
ここでいうところのQ(クオリティ)は仕事の働きがい、P(価格・プライス)は給与水準や労働条件、S(その他)は職場の雰囲気など、でしょうか。
③の従業員の待遇改善を継続することでPを上げるとともに、マーケティングとイノベーションを意欲的に実践する会社は社風としても仕事内容としてもQの働きがい、Sの職場の雰囲気などもよいものになっていくと考えられます。

 

マーケティングとイノベーションは、人モノカネと言う内部環境を構成する要素で作り上げていくしかありません。今だけではなく、将来のヒト・モノ・カネをしっかりと整えていくためにもまずは基本になるのは人材への投資です。このような戦略的な観点から、今だけではなく将来に向けた採用競争力をつけるためにも労働における資源の最適配分を労働分配率の考え方を基準として実施していく事は経営戦略にとって非常に重要なことだと考えます。

 


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