ウクライナ情勢にページが割かれるため、各国の金融情勢についての報道は比較的小さくなっていますが、私は日銀の政策に大きな懸念を持っています。アベノミクスのツケがとうとうやってきて危ない橋を渡ろうとしているからです。
金融にお詳しい方はもうすでにお気づきだと思いますが、先週、米国と日本で金融政策を決める中央銀行の会議が開かれ、米国の中央銀行(FRB)は金利を引き上げるなどの引き締め政策に転換しましたが、日本は緩和策を継続するという結論でした。欧州でも引き締め方向です。
FRBは、今回の会合(FOMC)で0.25%の政策金利(フェッドファンド金利オーバーナイト)の引き上げを行い、年内にあと6回あるFOMCでもそれぞれの回で金利の引き上げを行うとしています。中には一度に0.5%引き上げる回もあるかもしれません。また、これまで国債などを市中から買うことで市中への資金の供給を行ってきたのを、次回のFOMC以降は、逆に資金の引き上げを決定するかもしれないことを示唆しています。いずれにしても、金融を引き締めることとなっています。
一番の原因はインフレです。米国ではウイズコロナの政策もあり景気は比較的堅調で、6四半期連続での景気拡大中です。雇用状況も良く、雇用の不足が賃金の引き上げにつながり、それもインフレを加速させ、最近では前年比で7.9%の消費者物価の上昇です。これは40年ぶりくらいの物価上昇で、FRBも物価上昇を抑えるのに必死の状況です。
一方、日本の直近の物価上昇率は0.6%程度ですが、安心はしていられない状況です。日本の場合、昨年4月に携帯料金の引き下げがあり、それが物価を前年比で1.5%程度抑える効果があると試算されています。その効果は1年後である今年4月にはなくなり、2%程度の物価上昇がもう目の前に迫っています。
また、皆さんもお気づきのように、ガソリンなど石油製品だけでなく、木材や食品などの値段も大きく上がりました。(私はこの原稿を大阪から戻る新幹線の中で書いていますが、新大阪駅でいつも買う1000円の駅弁も100円値上がりしていました。)
日本の場合、米国と違い厄介なのは輸入物価が前年比で40%程度上がり、その影響で企業の仕入れ価格である企業物価が9%程度上昇し、それに耐えられなくなった企業が続々と値上げをしているという、「コストプッシュ型」の悪いインフレであることです。企業も十分に最終消費財の価格に転嫁できないため儲かってはいません。また、給与が十分に上がらない中でのインフレは家計、特に低所得層を直撃します。
こういう場合、本来なら、日銀は引き締め気味の政策を採り、インフレを抑えにかかるべきですが、長期金利の誘導目標である0.25%を死守するために、無制限に10年物国債を買い続けると宣言しています。国債を買うということはその対価を市中に放出するわけですから、緩和策であり、インフレを助長することとなります。欧米と180度違う政策を採るわけです。
日銀は、悪いインフレなので緩和策を続けると言っていますが、本音のところでは金利上昇を是が非でも避けたいのだと私は考えています。日銀は、アベノミクスに始まった「異次元緩和」をやり続けており、そのため、国債を550兆円ほど保有しています。アベノミクス前には100兆円台でした。大量の国債を保有するということは、金利が少しでも上がれば多額の含み損を抱えるということです。実質的に債務超過となる可能性もあります。通貨を自身の信用で発行する日銀としては、そのような事態を是が非でも避けなければなりません。多額の国債を発行する政府にとっても金利が抑えられるほうが助かります。
しかし、繰り返しますが、緩和策はインフレを助長します。日銀としては、4月以降物価が上昇し、それが長引かないことを心より願っていると思いますが、どうなるかはウクライナ情勢もあり神のみぞ知るです。日銀が危ない橋を渡っていることだけは明らかです。