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嵐に窓を開け放つ日銀の政策は機能するか

小宮一慶のモノの見方・考え方
2022.05.24

日本でも4月には消費者物価が前年比で2.1%上昇しました。昨年4月の携帯通話料下げの影響がなくなったことが大きいですが、それでも、ガソリンはじめ燃料代、食料品、建材など値上がりをしている商品が目立ってきました。これは望ましいインフレではなく、「コストプッシュ型」という原材料の高騰が招いているインフレで、消費者が支払いを増やした大部分が、海外に流出します。

 

一方、米国の消費者物価上昇率が8%台、欧州が7%台などと比べると、日本の上昇幅はそれほど大きくありません。景気のあまり良くない中国以外のアジアの国々と比べても低い状態です。

 

しかし、大きな問題があります。それは企業の仕入れを表す「企業物価」は10%の上昇をしていることです。つまり、日本では企業は仕入れの値上がり分を最終消費財に十分には転嫁できていないのです。それは、企業の利益の縮小をもたらします。

米国でも企業の仕入れは前年比で11%程度上昇していますが、先にも述べたように、消費者物価は8%台の上昇です。仕入れより売値のほうが数割は高いですから、仕入れ上昇分のほぼすべてを最終消費財の価格に転嫁していると言えます。これは、給与も含めた雇用の状態が良いからです。

 

残念ながら日本では、十分に給与が上がらないので景気の足腰が弱く、一部の企業をのぞいて最終消費財に十分に価格転嫁できないという状態です。それでは企業の利益が減少するので、余計に給与が上がらないということになります。

 

私のお客さまを見ていても、仕入れ上昇分の十分な価格転嫁ができていないところも少なくありません。とくに中小企業ではその傾向が強いと感じます。

 

こうした状況で、日銀は緩和策の続行を発表しています。具体的には政策金利をゼロ近辺に維持し、10年国債利回りの上限を0.25%に維持するということです。上限金利を超えそうになると、国債を無制限で買い、0.25%を維持するということです。国債を「買う」ということは、その分の資金を市場に供給することになりますから、物価は上昇しやすくなります。

 

これは、米国や英国などの政策と180度反対の政策です。米英は、インフレ抑制のために政策金利を上昇させています。米国では、3月に0.25%、5月には0.5%の利上げを行い、今後も金利上昇を続ける意向です。しかも、6月からは、中央銀行が保有する国債などを売り出すことを決めています。「売る」ということは、その分市場から資金を吸収するということです。インフレという嵐の前で、雨戸をこれまで以上にきちんと閉めるという政策です。

 

日銀の思惑は、緩和策により景気上昇を見込んでいますが、インフレ下での緩和策(=インフレ促進策)を採るわけですから、下手をすれば企業の仕入れだけは高止まりながら、景気は浮揚せず、給与も上がらないという状況となります。つまり、企業も儲からず、消費者も給与が上がらない状況で商品の値上がりに苦しむという状況にもなりかねません。

秋ごろが、日本のインフレのピークと見られていますが、果たして「嵐の前で窓を開け放つ」日銀の政策が功を奏するかに注目です。


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