世界的なインフレが足元進行する中で、日本においても各商品の値上がり報道が続いています。今回は5月に入ってからの報道を踏まえながら、物価の現況と今後の見通しについて考えてみたいと思います。
物価には、企業間の取引価格を反映する企業物価と、企業と消費者間の取引価格を反映する消費者物価の2種類があります。
まず、企業物価についてですが、4月の企業物価は前年同月比で10.0%上昇しています。特に、ウクライナ侵攻等の影響により石油・石炭製品などの資源関連の値上がりが著しいですが、その他の幅広い品目でも価格が上昇しています。
ここまでの上昇は1980年12月(10.4%)以来であり、41年ぶりの2ケタ伸びと報じられています。
企業物価の上昇は、前述の通りエネルギー価格の高騰が大きな要因ですが、最近の円安も拍車をかけています。円安は、米国の金融引き締め(高金利)が原因となっている為、日本が金融緩和(低金利)を続ける限り、円安が更に進行することも懸念されます。
このような企業物価の上昇に対して、消費者物価はどのようになっているのでしょうか。結論としては、消費者物価は企業物価ほど上昇していません。
総務省が近く発表される消費者物価の上昇率は2%台になると報道されていますが、企業物価と比較すると7%超のギャップがあります。
消費者物価の上昇率が低いのは、商流上「川下」に位置付けられる小売業やサービス業が、値上げによる顧客離れを懸念して大きな値上げを進められない為です。日銀が4月に公表した報告書には、「衣料品の仕入れ価格は上昇しているが、顧客離れを避けるために値上げは行わない」(東北の小売業)という現場の声が紹介されています。
そうした中でも、企業物価ほどではないですが、消費者物価も上昇を始めており、幅広い企業が値上げに踏み切っています。皆様も日常の中で実感され始めているのではないでしょうか。
それでは、消費者物価は企業物価に合わせて更に値上げする展開となるのでしょうか。
アメリカやヨーロッパでは消費者物価上昇に伴って働く人の賃金が上がり、更なる物価上昇になることが想定されています。
しかしながら、日本の消費者物価上昇は、原材料費の値上げ等をカバーするものにとどまり、働く人の賃金が上がることは期待できません。
実際、厚生労働省が発表した3月の賃金は、額面金額の「名目賃金」は伸びているものの、物価上昇分を反映した「実質賃金」は0.2%減少しています。
働く人の給料が上がらないと、消費者物価が上がっても消費量の減少に繋がる可能性が高く、企業は
更なる値上げに踏み切りにくくなります。
こうしたことを考えると、企業物価に合わせて消費者物価が更に上昇することは、現時点では考えにくいかもしれません。
企業物価に合わせて消費者物価が更に上昇しないとなると、「川下」に位置付けられる企業ほど経営が悪化する懸念もあります。
エネルギー高、原材料費高の中でハードルは高いものの、経営悪化を防ぐ為には人的生産性の向上等、効率性の向上も求められてくると思います。
今後もしばらくの間は物価動向から目が離せません。