出典: 松下幸之助『実践経営哲学』 (PHP文庫)
【『実践経営哲学』について】
わずか3人で細々と始めた事業を一代で世界的な企業に成長させた松下幸之助。その松下幸之助が60年近くの事業体験を通じて培った経営についての基本の考え方=経営理念・経営哲学をまとめ、1978年に発行された書籍になります。20項目にわたってその考え方が語られており、経営を志すものであれば、とても心に響く内容になっているだけではなく、自身の経営観を見直し、もう一段深いものとするための良書となっています。
【今週の言葉について】
『今週の言葉』はこの書籍の『ダム経営を実行すること』という項目に登場します。そこで以下のように話をされています。
「企業経営というのは、いついかなるときでも堅実に発展していくのが原則であり、そのような企業にしていくための大切な考え方が”ダム経営”というものである。」
表面的に聞くと、財務的な安全性におけるキャッシュ(現金)の蓄積の重要性を説いているかのように思えますが、次の言葉からそうではないことに気づかされます。
「ダムのようなものを経営のあるゆる面に持つことによって、外部の諸情勢の変化があっても大きな影響を受けることなく、常に安定的な発展を遂げていけるようにするというのが”ダム経営”という考え方である。」
キャッシュだけではなく、設備や在庫、人材、技術においても、ダムをつくることがダム経営と言え、そう考えるとダム経営は「適正な準備をすること」を意味していて、それは「勝つべくして勝つ経営」とも言えます。裏を返すと『ダム意識のない経営=なりゆきの経営』を行っていたとしたら、外部環境に左右され、後手後手になってしまう。そうすると当然のことながら有効な手段を打てる確率は下がり、会社は成長しないし、利益も出せない。今回のコロナのようなことが起こると倒産すらあり得る。だから、ダム意識を持った経営が重要になると言えるのではないでしょうか。
さらに松下幸之助はこう続けます。
「ダム意識を持って経営をしていれば、具体的なダムというものは、その企業の実態に応じていろいろ考えられ生み出されるであろう。」
この言葉は、ダム経営を実践するためのヒントと捉えることができます。ダム意識の源泉は、外部環境に関心を持ち、中長期で会社の未来・あるべき姿を具体的に描くことにあると考えます。具体的なあるべき姿を描くことによって、自社の経営においてどの部分でダム意識を持っておく必要があるのか、どの程度の水準で持っておく必要があるかということを整理することができると考えます。
自社のどこにダム意識を持つべきか、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。