対事業所向けの専門サービスを提供する、とあるオーナー会社(社員30人程度)でのことです。人材採用の応募には恵まれ、新卒で年30人、中途でも20~30歳代で年20人程度が安定的にありました。一方で、入社した人の8~10割が3年以内に辞める高い離職率と、メンタル的に疲れて休職してしまう人が常時いるようなところでした。
創業20年の同社は当初から、「辞めてもカネで惹きつけて人材補充できるからよい」「昇格して高給者が増えすぎるよりは辞めてしまう方がむしろ好都合」(人材の高速回転モデル、“3年使い捨て”)という暗黙の経営スタンスで進めてきたようです。
結果、上層部・中堅層・若手という3層構造の中で、「若手が辞める⇒責任ある立場の中堅層が高負荷になり辞める⇒その後に入ってきた若手を指導・育成できる人がおらずほったらかしになり辞める⇒中堅層がますます確保できない⇒ますます若手が辞める→…」という長年の悪循環で組織の質が低下していきました。
しかしジワジワ来る悪影響は、わかろうとしない人になかなかわからないものです。
人材の応募数は変わらず安定的にあったおかげで新規採用もできていた結果、「社員の頭数(人数)は確保できていたが、“戦闘力”(営業力、付加価値力、サービス提供力)の低下」を引き起こし、収益の伸び悩みや利益率の低下が数年間も続く事態となりました。その間、抜本的な対策を打たれることはありませんでした。
さすがに危機感を感じたのか、あるとき社長は、今後どのような打ち手を取るべきか、上層部(含む取締役陣)に意見を訊ねます。
出てきた意見は、①人材市場の変化、②応募者の質の低下、③採用者のスキルや成長意欲の無さなどの質の低下、④自社の採用プロセスの巧拙、であり、要するに、「中堅層以下が良くない、成長していない、意欲もない」です。
結果、主に実行されたことは、「いかに質の良い人だけを採用するか(≒“ふるい”を厳しくするか)」であり、採用基準の厳格化、採用時の適性試験(ペーパーテスト)の強化、面接試験の多段化、でした。
それを目の当たりにした中途入社の中堅層A氏は天を仰ぎます。「本質はそこじゃないんだよ」と。
早急な止血的対応に加えて、構造的な改革が必要なことはもちろんですが、根本には、「うすうす感じながらもこれまで何も踏み込んだ実態把握や打ち手を具申してこなかった上層部」という組織的な問題があります。
なぜ、上層部からは前述のような意見しか出てこなかったのか。よくよく考えれば、さもありなんです。上層部は社長の活動(特に営業開拓力)の恩恵を受けて今の地位になった人ばかりであり、今後もその恩恵を受け続ける必要があります。社長からたとえ忌憚ない意見を求められたとて、結局は自分達の責となるようなこと、はたまた社長の考えやアイデアに異を唱えることなど、よほどの覚悟がない限りしないことの方が多かったのでしょう。
中堅層にはA氏以外にも自社が抱える構造的な問題や組織的な要因に気がついていた人は過去からもいたようです。(皆、自社の将来を想い・憂い)気骨ある者は社長や上層部と戦ったものの、無視されたり、暫くの間だけ対応策が実行されて立ち消えたりして、結局は、諦めの気持ちで社を去っていったようです。
「意見を求める/意見を述べる」は片矢印(→)の作業だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、人間関係や信頼関係、意見の求め方や聞く姿勢なども要求される双方向の「共同作業」です。たとえば、真に聞く姿勢をもってなく、伝えてもだめだと思われればより良い意見も出てきにくいでしょう。
上記で述べたケースは、極端な例かもしれませんが、「誰と共同作業としての意見交換をするか」という「人選」こそが最初の重要な選択であることをお伝えしたく、述べさせていただきました。