企業の目的・理念は“言うは難し” | コンサルタントコラム | 中堅・中小企業向け経営コンサルティングの小宮コンサルタンツ
loginKC会員専用お問い合わせ

コンサルタントコラム

ホームchevron_rightコンサルタントコラムchevron_right企業の目的・理念は“言うは難し”

企業の目的・理念は“言うは難し”

経営のヒント
2023.11.30

最近読んだ本の中で特に印象に残った本の一つに、ロン・カルッチ著『誠実な組織』がある。

その帯にはこう書いてある。「最強の戦略は『誠実さ』だ」と。組織行動学に基づき、数千件以上の企業の実態調査を基にしており、経営の原理原則とも符合する内容である。

本書には次のようなデータが示されている。

・職場における帰属意識によって、業務のパフォーマンスは推定56%改善し、離職率は50%低下し、従業員の病欠日数は75%減少する。

・従業員が帰属意識を感じると、自分たちの会社を「働きがいのある会社」 として推奨する傾向が67倍高くなる。

・「日常における小さな除け者扱い(Micro-exclusion)」が一度でも起きると、チームプロジェクトにおける個人のパフォーマンスが即座に25%低下する。

・帰属意識が高い従業員は、それほど高くない従業員と比較して、全体的な仕事のパフォーマンスレベルが56%高い。

・従業員1万人の会社で、従業員全員の帰属意識が高まれば、生産性が飛躍的に向上し、年間利益が5200万ドル(約52億円)以上増加する。

(出典:ロン・カルッチ 『誠実な組織 信頼と推進力で満ちた場のつくり方』333頁、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 帰属意識とは、社員がその会社、組織の一員であると自覚する意識、昨今ではエンゲージメント(会社への愛着、貢献意欲)という指標を高めることで、企業の業績に大きく寄与することが分かっている。企業・組織の目的、価値感、ビジョン、それをブレークダウンした目標と計画にメンバー全員が一丸となって取り組むかどうか、その重要なカギが帰属意識と捉えることは経営の原理原則の一つといえる。古くは2500年前の『孫子の兵法』にある「上下欲を同じくする者は勝つ」(トップから現場まで心を一つにして戦うこと)であり、1938年にチェスター・バーナードが著した『経営者の役割』で示された組織の法則も然りである。つまり、「目的を共有せよ」である。心を一つにするとは共通の目的によってである。言うまでもないが、その目的は経営者やリーダーの私利私欲や組織自身の存続であってはならない。常に社会の公器としての特有の使命(顧客への貢献、人を大切にすること、社会への責任など)という組織の外に対する大義でなければならない。

目下、日本企業に目を向けると、この帰属意識が低い。エンゲージメントに至っては世界最低レベルをずっと低空飛行し続けたままである(日本経済新聞電子版 2023614日)。これでは世の中をより良くするための競争に勝てるわけがない。ではどうするか。

結論、「初めから無いものは最後まで無い」である。経営者、リーダーが語るその理念、ビジョン、最近であればパーパス(企業の目的、存在理由)を本気で体現しようとしているかである。そしてすべての仕事、コミュニケーションにおいて「我々は何者であるか、何のために存在しているのか、自身こそがその体現者である」との覚悟と言行一致の蓄積が決定的に組織の一体感に影響する。そして、誰が正しいかではなく、“何が”正しいかをメンバー一人ひとりの意識に訴えかけることを徹底しなければならない。さらにそのリーダーのもとで誠実な目的を中心にコミュニケーションされなければならない。それを経営用語で「場(ba)」という。手前の実践談で恐縮だが、事業の成功のために毎週半日の時間をこのコミュニケーションの時間に費やしていた。それが組織が成果をあげるために決定的に重要だからだ。因みに「場」とは以下のように定義される。リーダーはこの場を決して忙しさにかまけて後回しにしてはならない。

場とは、人々が参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働きかけ合い、共通の体験をする、その状況の枠組みのことである。
出典:伊丹敬之 『場のマネジメント』 23

スティーブ・ジョブズは死を目の前にして経営を引き継ぐときにアップル・ユニバーシティ(リーダー育成のための企業内大学)を起こした際、「なぜ」を大事にしていた。「なぜそう考えたのか」「なぜそういう行動をとったのか」「なぜあるものに対してそういう見方をするのか」など、コミュニケーションの中で「なぜ」を大事に語ったと後継者のティム・クックは述べている。スティーブ亡き後、アップルは世間の懸念を払拭してその価値を継続、向上させることに成功した。誰が正しいかではない。何が正しいか、その徹底が組織を強くする。

その理念、目的はまやかしでは通じない。まさに経営者、リーダーが語る目的こそ“言うは難し”である。


お問い合わせCONTACT US

コンサルティング、セミナー、KC会員についてなど、
お気軽にご相談ください。