「質×量」は、ビジネスをはじめ、私たちを取り巻く様々な場面で応用可能な
・基本的な要素分解であり
・代表的なトレードオフでもある
と言えます。
例えば、お客様に何かをお買い求めいただくまでの流れを、下記のようにざっくり考えてみます。(下記に加えて、「興味を持ってもらう」「他社と比較する」など、必要に応じてもっと細分化もできると思います)
1.商品・サービス(あるいは会社)の存在自体を知ってもらう
2.商品・サービスを理解・納得してもらう
3.商品・サービスを買う意思決定をしてもらう
1.であれば、例えば紙媒体、ウェブ媒体などの広告を使って、広報する方法が考えられます。チラシという紙媒体であれば、下記のように質×量でチラシ戦術の効果向上を考えることができます。
A.チラシの内容・デザインなどを秀逸にする(質を高める)
B.チラシを大量に作り配達する(量を増やす)
よく「ヒト」「モノ」「カネ」と言われますが、これらの制約がなければ、A.B.どちらも行うことができるでしょう。しかし、私たちを取り巻く環境にはたいてい何らかの制約があります。例えば、一定の予算が決まっていれば、A.B.に対して無尽蔵にお金を使うことができません。A.とB.のどちらをどの程度とるのかを決める必要があります。
このように整理すると、「質×量」で物事を意思決定するのは至極当然のことと感じます。
しかし、私たちはなかなかこれができていないものです。
先日もある企業様で、部門別の事業計画・半期計画の全体進捗会議に立ち会いましたが、進捗の芳しくない項目がいくつか見られました。その多くは、行動計画が「質×量」の観点で、具体的に何をどこまでするのか明確になっていないことが当てはまりました。加えて、「質×量」の観点で明確な行動計画でも、「ヒト」「モノ」「カネ」などの予期される制約事項が考えられていなかったために、途中で進まなくなっているものが散見されました。
特に、「ヒト」に関する制約には、「モノ」「カネ」のように見えにくい要素があるために、注意しなければなりません。「ヒト」に関する制約の代表格が、「時間がない」という制約です。
何か新しいことを始めるための行動計画を立てたら、その計画実行に要する時間が、日々の活動時間に新たに追加されることになります。
このとき、私たちは往々にして「がんばる」という意気込みを解決策としがちです。
上記の企業様においても、時間の制約に対する解決の方向性が「時間外労働を一定期間に限って増やす」となっていました。
臨時的に労働時間を増やすことも状況によってはもちろん必要ですが、「時間で勝負する」は、必ずどこかのタイミングで破綻するものです。
私たちが使える時間は、自分を含めたチームメンバー×24時間/日しかないからです。自ずと上限があります。正確には、毎日24時間も投入できるわけもないので、もっと短い時間/日になります。休日も必要です。よって、「労働時間を増やす」は究極の禁じ手と言えるでしょう。
これは当然の考え方ではありますが、多くの企業では(程度差はあるものの)「労働時間を増やす」の解決方法に依存しているのを見かけるものです。何とかして、「労働時間を増やす」以外の解決方法を考え抜くべきです。
ここでまた、「質×量」の観点の出番です。
新たな行動計画を実行したいと思ったら、既存の活動の
・質を高めることで、結果的に量(投入しないといけなかった時間)を減らす
・その活動そのものをやめて、量(時間の投入自体)をなくす
ことにより、新たな行動計画に投入できる時間を捻出するわけです。
新たな行動計画を始めたいと思ったら、既存の活動への投入時間を減らす計画(もし無理だとしてもその可能性)がセットで考えられているか、同時に確認するとよいと思います。