今月(2024年12月)、ある企業の経営者様と2日間にわたり、経営状況についてじっくりとヒアリングする機会をいただきました。
この企業は製造業を営んでおり、売上は急成長し、大きな利益を上げています。70歳を超えられた経営者様の取り組みは、聞けば聞くほど理にかなっており、その業績にも納得のいくものがありました。
ヒアリングが終わり、雑談の時間となった際、私は次のように尋ねました。
「社長はこれまで、どこかで経営について学ばれたのでしょうか?」
すると、経営者様から次のような答えが返ってきました。
「私は若いころに〇〇という経営コンサルタントから学びました。その方が『孫子』をもとに経営を教えてくれたのです。そして、その教えが後の経営に大いに役立ちました。
たとえば『各個撃破』です。これは、小さな軍勢でも、大軍勢が分散している場合には個別に集中攻撃をすることで勝てる、という教えです。私はこの考えを守り、事業領域を集中させることを心がけました。」
私はこの話を聞き、深く納得しました。この経営者様の取り組みの本質は「集中」にあったのです。商品や顧客を厳選し、その領域で徹底的に磨き上げることで、他社との競争に勝ち抜いてきたのです。
『孫子』は、しばしば現代ビジネスに活かせる古典として紹介されます。しかし、私自身はこれまで『孫子』を愛読しつつも、「その教えを実際にビジネスに落とし込めるものなのだろうか?」と疑問を持っていました。
しかし、この経営者様の話を聞いてからは、「教えを自分に当てはめると何をすべきなのか」を考え、それを「徹底的に実践」するのであれば、『孫子』は確かに経営のヒントとなると感じるようになりました。
たとえば、有名な「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉。
これはビジネスにおいては、競合の強みと弱みを把握すると同時に、自社の強みと弱みを明確にすることで、自社の製品やサービスを差別化し、競争に勝つための戦略を構築できる、ということになるでしょう。
しかし、実際には競合の強みや弱みを十分に把握していない企業も多いと感じます。そのような状況では、自社の製品やサービスの差別化は難しいでしょう。
前述の経営者様は、驚くほど競合他社の強みや弱みを把握されており、その上で自社製品をどのように磨き上げるかを常に考えられていました。これも、『孫子』の教えを自身に当てはめ、徹底的に実践した結果なのかもしれません。
『孫子』は、今から2500年以上前に書かれたものです。そのため、ただ読んだだけでは現代のビジネスには直接役立たないでしょう。
そこで、私が一つおすすめしたいのは、『孫子』を読んだうえで、その教えを「自社のビジネスに当てはめるとどうなるのか」を書き出してみることです。これにより、教えが自分の状況に具体的にどう活かせるのかが明確になります。
あとは、それを書き出した内容を徹底的に実践するだけです。今回ご紹介した経営者様も、数十年前に学んだ教えを徹底的に実践し、それが今日の成功につながっています。
『孫子』はただの古典ではなく、自身のビジネスを見直し、戦略を磨くきっかけとなる書物です。大切なのは、その教えを自分の現場にどう落とし込むか、そしてそれをどれだけ徹底して実践できるかということではないでしょうか。