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「マイクロアグレッション」からの解放を目指す

経営のヒント
2026.06.18

「ハラスメント」と「マイクロアグレッション」という言葉があります。

「ハラスメント」は、しばらく前から声高に叫ばれてきましたので、聞き慣れた言葉になりつつあります。一方で、「マイクロアグレッション」は、まだあまり馴染みがないという方も多いかもしれません。

いろいろな辞書やサイトによる説明を参照すると、ハラスメントとは「主に優越的な立場や権力を背景に、相手に対して不快感・苦痛・脅威・不利益を与える行為」のように定義できます。明確な加害行為を対象とするため、予防や対策のルール化・制度化が比較的検討しやすく、コンプライアンスの文脈でも扱いやすい領域です。

マイクロアグレッションとは、「無意識の偏見や固定観念に基づく差別的・否定的な言動のこと」だとされます。マイクロアグレッションの、ハラスメントとは異なる厄介さとして、発言している本人に自覚が乏しいことが挙げられます。発言する本人としては、善意や褒め言葉のつもりで発せられているケースも少なくありません。

例えば「(外国人に対し)日本語が話せるのはすごい」「女性なのに論理的だ」「男性なのに共感的だ」「シニアなのにITに強い」といった言葉は、一見ポジティブですが、裏には「本来はそれができないはず、弱いはず」といった前提が潜んでいる可能性があります。

マイクロアグレッションを緩和するには、無意識の意見は無意識のバイアス(偏見や先入観)から出てくることを自覚し、「自分も無意識のバイアスをもっているかもしれない」という前提に立つことが、まずスタートラインです。

私たちは、経験や環境によって形成された「自分にとっての当たり前=固定観念」を基準に物事を判断しようとします。これは、日々見聞きする一つひとつの事象に対して膨大な時間をかけずに判断できるよう、認知の効率化のために不可避的に生じるものでもあり、完全になくすことはできないでしょう。この視点に立つと、無意識のバイアスに関連して重要なのは、「排除」というより「認識と制御」になります。

経営としては、無意識のバイアスに気づくことを組織的に鍛えるべき能力のひとつだと捉えて、「内省の習慣」を組織に根付かせることも有意義だと言えます。自己認知力そのものをマネジメントスキルの一部と認識するということです。

バイアスに気づく方法や修正する方法として、例えば以下などを会議の設計、研修などの組織的な活動として促すことが挙げられるかもしれません。

・違和感ログを取る
誰かの発言に対して「少し引っかかった」と感じた瞬間を書き留めてみる。後で振り返ってみると、自分の中の隠れた前提に気づくかもしれない。 

・他者からのフィードバックを受ける
(心理的安全性が一定程度あることが前提ですが)「今の発言についてどう感じたか」「なぜそう思ったか」を率直に伝え合う取り組みをする。 

・属性と能力を切り分ける訓練をする
「〇〇だから△△だろう」と考えたとき、○○という属性は本当に△△を引き起こす事実があるのか、それとも思い込みなのかを検証する。 

・逆の仮説を立てる
「もしこの人が別の属性の持ち主であったしても、同じ評価をするか」と考えてみる。 

・データ・事実で補正する
データの取得が可能なものはデータと照らし合わせてみて、自分や他者の意見がデータ(事実)とズレた思い込みになっていないか確認してみる。

・意思決定プロセスを構造化する
さまざまな意思決定場面において、どんな要素をどんな観点で評価したうえで意思決定するのか、評価の基準を明文化し、主観に起因するバイアスの影響を減らす。 

・多様な人材との接点を増やす
社内外で多様な人材と関わる機会を増やし、経験の幅を広げて固定観念の枠を外す。 

そして、改めて認識したいのが、マイクロアグレッションからの解放は、倫理や配慮の問題にとどまらず、組織の競争力につながるという視点です。

マイクロアグレッションが放置される組織では、「この組織では声を上げても無駄だ」と優秀な人材ほど早期に離脱する、意見が出にくくなり意思決定の質が低下する、同質的な発想に陥りイノベーションが生まれにくくなる、といった構造的な問題が生じます。

逆に言えば、多様な人材が安心して意見を出せる環境は、そのまま競争力の源泉になるわけです。

ハラスメントへの対応を「違反を取り締まるステージ」と言うなら、マイクロアグレッションへの対応は「無意識を扱うステージ」と言えます。一朝一夕にできるものでもありませんが、逆に言えば、ここに取り組む企業は、これからの人材競争において優位に立つ可能性が高まりそうです。

DEI(「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」)が、組織マネジメントにおいて重要なテーマのひとつだとされますが、マイクロアグレッションからの解放はDEI実現のための一助になると言えます。マイクロアグレッションからの解放を含めたDEIのテーマは、「やるべきこと」というより、「強い組織実現のためにやりたいこと」と認識すべきなのではないかと考えます。

藤本 正雄


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