今週は、国内では自民党総裁選、およびコロナの緊急事態宣言解除の2つがポイントと言えるでしょう。
■自民党総裁選と格差の是正
自民党総裁選については岸田さんが当選を果たし、「成長と分配の好循環」に向かって進んでいきます。
「成長なくして分配なし、しかし分配なくして次の消費・需要も喚起されない。分配なくして成長もない」と言うことで、令和版所得倍増として民間の賃上げと格差是正を、年内に数十兆円規模の経済対策を行うと言うことによって実現する方針です。
世界的にも資本主義経済を進めていった結果の格差拡大が懸念点となっており、デジタル課税や法人税の最低税率の引き上げなどによってその是正が図られようとしています。日本においても同様に格差是正が進む方向になるかもしれません。
世界的な資本主義による格差是正については、GAFAを始めとして圧倒的な生産性を誇る企業が引っ張った上で生まれた格差でもあります。
これに対して日本の格差は、大きな成長がない中でコロナ禍による分断を主要因として生まれた下方面での格差と言えるでしょう。
つまり、生産性高く付加価値を生む機能がない中で、下がった部分の格差だけを埋めようとすれば、財政的な問題が降りかかることになります。格差是正のための分配の財源がないのです。
GAFAなどの巨大IT企業等へのデジタル課税、法人税の最低税率の引き上げなどは、それによって課税された税金そのものがGAFAをはじめとする巨大企業の内部に蓄えられ配当として資本家に資金が集中する二極化構造を是正するとともに、その税金そのものが再分配の原資になります。
更に米国においては財政的な問題を防ぐガバナンスの仕組みとして、債務上限を法律で決めることになっているため財源のない無尽蔵な財政支出は実現しづらい状況になっています。まさに現在、財政の崖問題が再燃されています。逆にこのガバナンスの仕組みが政争の具となり米国債のデフォルトリスクにつながっているという複雑な状況です。(3.5兆ドルプランというこの10年間に子育てや教育の支援・気候変動対策の拡充等に3.5兆ドルを使うプランの可否が野党共和党や民主党の中道派との調整に難航しているということです。)
このようなガバナンスが本当に良いのかなんとも言えませんが、無尽蔵に財政出動を行うことも将来を踏まえて考えなければならない状況であることは日本の財政状況を見ても明らかです。
再分配を図るのであれば、その分配によって生産性が上がる分配をする必要があります。もちろんコロナ禍で苦しんでいる方の救済はとても重要であり必要なことですが、今後の社会の生産性が上がることに向けた投資の実効性判断が必要であることは企業経営とも共通するところがあります。安心できる社会と生産性の成長を実現する社会を実現する分配を期待したいところです。
■緊急事態宣言の全面解除
新型コロナウィルス関連では9月30日に緊急事態宣言の全面解除によって、10月以降は酒類提供が全国で解禁がされます。ただ一都三県では条件付きで8時までと言うことですが、日本の場合には憲法において「緊急事態条項」がなく、かつ「営業の自由」が認められている中でどこまでいってもあくまで要請ベースの話です。
要請ベースの話ではありますが、今後の再度の緊急事態宣言となった場合にも接種証明・陰性証明を条件に酒類提供を可能にするということです。
ワクチンの接種も進んでおり国内産のワクチンの開発も進行し治療薬の開発も進んできている状況であり、時間の経過とともに状況が改善することは明らかな情勢になっていると言えるでしょう。とはいえコロナが根絶するわけでもない中で、ステージの変わったコロナとの付き合い方を模索するタイミングで来ていると言えるでしょう。
今回の緊急事態宣言の全面解除を受けて、外食・サービス業は営業再開に向けて人材確保や顧客や社内における感染症対策に向けた準備に追われる状況となっています。今後もペースは落ちるでしょうが感染者の波によってブレーキとアクセルが緩やかに繰り返されることは想定しておく必要があるでしょう。まだ振り返るには早い状況ではありますが、コロナ禍は特定の産業を狙い撃ちするような影響を与えました。
皆さまも、今後の備えとして自社及びご自身に特に影響を与える可能性のある事態・災害について想定をしておくことは必要でしょう。
一度でも起こりうることを想定したことと、想定すらしなかった事態に陥ることを比較すると、起こりうる想定をしたことの方が対応はしやすいと言えます。
もちろん甚大な影響をこうむることを避けることはできませんが、人の感情は想定していることへの反応と想定外の反応では大きくことなります。想定していることに感情が大きく揺さぶられることはないそうです。驚きの感情、怒りの感情、喜びも悲しみも、想定していないことがその感情を増幅させることについては皆さまも実感が湧くのではないでしょうか。心理的なBCPとして想定をしておく、イメージトレーニングをしておくということも時には大切なことです。
■今週の経済の動き
「今週の経済の動き」については、「今週の日経新聞の数字トピック30!」と合わせてお読み頂くことで、より理解が深まる構成になっております。「数字トピック30」に記載している数字に関しては、※( )で番号を記載しておりますので、ぜひ参照下さいませ。
景気動向全体で言えば世界の株式市場に下落圧力がかかっています。
米国を中心に財政政策の一巡や金融政策の正常化に向かっており、政府頼みの株高からの脱却が求められる段階に来ています。
また、資源高やインフレの傾向が好景気による需要の盛り上がりによるものなのか、またはこのインフレが供給懸念から発生した事にとどまり今後の景気減速につながるのか、見方が分かれている状況でもあります。
FRBの総資産がこの1年半で倍増したことや物価上昇と失業率の改善もあり、金融政策の正常化は必須であると思われるとともに、2022年度における経済対策が2021年のGDP比11%から4%まで低減される見込みである※(5) という事からも政府主導の経済からの脱却のタイミングに来ている状況と言えるでしょう。
米国の実質経済成長率は5.9%と6月予測から1.1ポイント下げ、8月の消費者物価上昇率は4.2%と見込まれ、物価は上昇しているものの景気の盛り上がりがそれに連動していない可能性があります。※(3)
中国においても、不動産融資額が中国GDPの50%程度※(1) まで膨らんでおり、中国恒大の問題も含めて不動産バブルの様相を呈しています。深圳など年収の60年分に近い水準の住宅価格を記録するエリアがあるなど異常な高騰を見せています。
不動産の価格は金融引き締めに敏感です。既にエリアによっては不動産価格が1割から2割下落している場所があるなど、コントロールを失うと中国発のバブル崩壊の懸念も否定できません。
日本も29日に日経平均が一時850円下がるなど、世界株の下落圧力の影響を受けています。日本においては従前述べている通り周回遅れの経済状況であり消費者物価の上昇圧力もほとんどありません。これは需要全体が停滞していることにもよるものと思われます。
先程の格差問題と分配論でも述べたように日本には今成長エンジンがありません。成長エンジンがない中で、下方面の格差だけをカバーしようとしても経済戦隊は浮揚しません。
8月の業界別の動向で言えば、スーパーの売上高は前年同月の0.1%減、外食の売上高は前年同月比9%減、百貨店売上高は前年同月比11.7%減※(6)と緊急事態宣言下とは言え軒並み調子は良くない状況です。特にスーパーの売上高については、緊急事態宣言であれば本来外食等からスーパーに需要が流れる傾向もあるためスーパーの売り上げが下落しているという事は需要の根本的な弱さ感じざるを得ません。
欧州においては消費者物価指数が前年比3%上昇※(4)していますが、これは天然ガス相場の記録的な高騰による影響が大きく、需要そのものの底力は明確ではありません。
天然ガス相場については、EUはエネルギー構成の20%程度が天然ガスであり、その調達のほとんどをロシアから行っています。そしてそのロシアとの地政学的な要因によって供給懸念が高まり価格が高騰したと言う状況です。
※参考:EUのエネルギー構成など、国際エネルギーの動向についての詳細はこちらから
⇒https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/pdf/2_2.pdf
半導体問題やウッドショック、レアメタルなどにしてもそうですが、「生産拠点や体制に偏りがある物資」については常に供給リスクについてのアンテナを立てておく必要があるでしょう。
このような局所的なエリアや体制に、地政学的・人権的・環境的などの状況変化が起きることによって産業のキーファクターになるような物資が高騰・枯渇するリスクはBCP的な位置づけとしてもアンテナを張っておいた方が良いでしょう。(前回のKCクラブで触れたサプライチェーンの問題と共通しますね。)