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新しい資本主義について

経営のヒント
2021.11.19

11月16日の日経新聞の朝刊で、岩井克人氏が新しい資本主義を問うと言う記事でインタビューに答えています。
過度な株主還元を見直しすると言う内容になっていますが、非常に感銘を受けたため改めてここで記載したいと思います。

 

記事の概要としては以下の通りです。

日本の企業はバブル崩壊以降、売上高も従業員の給与も設備投資も横ばいで推移したが、配当金だけは4倍も増えた。さらに自社株買いによって株主還元に拍車がかかった。

 

株式市場は企業に成長資金を供給するのが本来の目的だが、実際は配当や自社株買いを通じて企業から株主に資金が流出している。しかも株主の3割は海外投資家、売買高では7~8割だ。市場が国富を収奪する場になってしまった。

バブル崩壊後の株価対策や、グローバル化による海外投資家からの圧力によって、会社法制が欧米以上に株主重視的な方向に転換した。今海外投資家の間では、日本はもっと買収しやすいカモと見なされている。

 

経営者の怠慢も指摘せざるを得ない。経営者は次の成長に向け、生み出した付加価値を設備投資や研究開発、従業員に対する人的投資などに振り向けるべき。経営者は会社の存続と成長といく義務を負っている。この義務は資本主義の根幹。

近代の経営学では経営戦略におけるナラティブ、すなわち物語の重要性が称えられている。人間は物語によって理解する動物だ。新しい資本主義と言うキーワードは興味深いが、それを物語る筋書きが足りない。」

 

日本の経済政策も同じことですが、生産性を上げるための人材や設備、研究開発に対して適切な投資が行われず、それが特に上場企業における株主を中心に還元されてしまうと言うことです。

国家運営においては、会社経営よりも状況が複雑なので株主に還元されるわけではなく、借金をして(国債を発行して)調達した資金が困ってる人たちに分配されると言う状況が生み出されています。

 

経営の原理原則として、生産性投資が行われなければ付加価値は向上しないと言う事が挙げられます。

生産性とは、アウトプットをインプットで割った数字です。

アウトプットとは付加価値、インプットは投資ということになるでしょう

※生産性=付加価値額(アウトプット)÷投資額(インプット)

 

付加価値を生み出すためには、当然ながら商品サービスをお客さまにとってより魅力的にしていく必要があります。そのために必要なのは人材を採用・育成したり、商品サービスをより高いQPSで生み出すための設備投資や、新しい商品サービスを作成するための研究開発投資などが必要です。 つまり、マーケティングとイノベーションの源泉となる投資と言うことです。

※QPSについて 

Q(クオリティ = quality):品質。商品やサービスそのもの。
P(プライス =price):価格のことです。
S(サービス =service):サービス。お金を支払わない全ての「その他」の要素です。

 

生産性の向上、改善と言う議論になると、付加価値を伸ばすよりもRPAやシステム化などによって投入コストを減らす方向に議論が行きがちですが、本当の意味での生産性の向上は、同じ時間や同じ体制、つまり同じ投入量で生み出される付加価値を増大すると言う事に他なりません。そのために必要な事は、マーケティングとイノベーションなのです。

 

私はコンサルタントとして仕事をさせていただいてますが、お客さまにおいてもマーケティングとイノベーションのための時間や投資がどれだけ効果的に行われているかということを常に着目しています。

国家におけるマーケティングとイノベーションは、人材投資や設備投資、研究開発などの生産性投資によってまかなわれます。
しかし闇雲にこれらの投資が行われれば良いわけではなく、適切な国家ビジョンに基づいた投資が求められます。これは企業経営においても同じことがいえます。ビジョンなき投資は効果が薄いです。しかしながらその投資に向かわれるべき資金が、ビジョンもないまま株主や無駄な分配として支払われる事態は由々しきことだと考えています。

 

過度な株主還元は、必要な生産性投資を阻害することになります。

本来研究開発や、人材投資、設備投資等に回るべき資金が株主還元として自社株買いや配当として流出してしまう事は、その会社の経営自体は改善せずにマーケティングとイノベーションのために投資するべきものが株主に還元されることにつながります。それは結果として株主(資本家)とその他の二極化を生むこととなり、さらに社会全体の生産性を上げることを阻害してしまします。特に日本のGDPの30年にわたる長期停滞はこの影響を大きく受けていると言えるでしょう。

株主が本来の意義を持って配当で得た資金を生産性投資に向かわせることができれば良いのですが、さらに収奪に向けた投資に使われてしまうと言う現実があります。

 

結局資本主義が有効に機能するためには、資本家の良識が求められると言うことになるのでしょうが、人間は元来それほど大した存在ではないと言うことかもしれません。富が富を生む投資を進めながら、本来社会において行われるべき生産性投資が、企業においても国においても行われない事態はなんとかしなければなりません。

株主にとってみれば、株主還元に回る資金が適切に生産性投資に回っていくことで、株式価値自体の向上が見込まれます。しかしながら、会社が良くなって株主価値の向上が実現するよりも、今実現可能なキャッシュを配当や自社株買いなどで還元してもらうことを求める傾向が強くなっていると言うことだろうと思われます。短期的視点にたってしまっているということでしょう。
研究開発投資自体が、成功を約束されたものではないためそれであればそのような投資をするよりも株主還元に資金を回した方が株主からの評価が高いと言うことになります。

 

資本主義が適切にもあるかどうかは、資本家の倫理観による部分が大きいのだと改めて考えさせられます。
株主も、考え方としては株式投資など投資を通して企業経営に参加していると言う経営者マインドを持つことが本来は求められるのだと考えます。
会社の経営が成功すると言う事は、商品サービスを通じて世の中への貢献を増やすことになります。そこに興味がなく、投資回収だけを最大化する投資に資本家が注力してしまうのであれば、法人税率の最低税率引き上げや、デジタル課税その他の国の政策による再分配機能を強化させる必要が出てくると言うことでしょう。

 

中国においても同じことが言えて、このような2極化構造を解消するために、共同富裕と言う理念に則った国家運営に軌道修正がなされている状況です。

資本家の富が増幅し、それ以外の人たちの富が増加しない二極化構造を改善するためには、分配ルールそのものにテコ入れすることと、資本家の良識を求める2つのアプローチが有効なのだろうと思われます。

 

国の政策でできる分配ルールのテコ入れは、課税による再分配の促進であり、企業経営としてできる事は労働分配率の向上などにより、株主に分配される資金の一部を人件費として資本家以外の人たちの所得向上に貢献することです。一方で、成長と分配の好循環と言う国の政策にも言えることですが、分配が先に来ると原資がなくなってしまいます。あくまでマーケティングとイノベーションによって生み出した付加価値をベースにして、適切な分配を図っていくと言うことになります。口で言うのは簡単ですがこれを企業として、社会として実践していくためには大きな課題があると言うことです。


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