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推薦図書 「「明治」という国家」(司馬遼太郎)

経営のヒント
2021.12.16

本書は1989年に放送された「太郎の国の物語」という、晩年の司馬遼太郎さんが出演された番組の下書きになったものです。
私の歴史好きの原点の一つは司馬遼太郎さんであり、その著作は多数読んでいますが、本書はその中でも特に好きな本の一冊です。

なぜ、260年国を閉ざしていた日本が開国後、明治維新を経て急速な成長を成し遂げることができたのか。その理由について、江戸時代から受け継がれた遺産や、明治期以降の先人達の努力にフォーカスをあてながら、司馬さんならでは洞察、分析をしている一冊です。

 

今回は、その中でも、今この時代だからこそ考えたい「第三章 江戸日本の無形遺産”多様性”」をご紹介したいと思います。もし本章のご紹介からご興味を持って頂けたなら、ぜひ本書をお読み頂けたらと思います。

「第三章 江戸日本の無形遺産”多様性”」
江戸時代は各地域が中央政府に統制されている現代と異なり、各藩が独立しており、各藩の藩風(文化、気質等)や強みが異なっていました。その中で、明治維新は、各藩の強みを活かしたことにより成し遂げられましたと考えます。

 

司馬さんは、江戸時代が進む中で、藩は現代の法人、会社と同じようになっていったとみなしています。
明治維新を現代に置き換えて考えると、各会社単体では解決できない社会全体の大きな問題・課題についても、複数の会社の強みを活かし、弱みを補いあうことで、問題・課題を解決するような大きな変革を起こせるのではないかと思います。

例えば、長州藩(山口県)であれば司馬さんは以下のように言っています。
「「長州人タイプ」という言い方があります。頭がよく、分析能力をもっている。また行政能力にすぐれ、しばしば政略的でもある。」
「藩主は伝統として「君臨スレドモ統治セズ」つまり明治憲法下の天皇、もしくは英国憲法における国王のようでした。その下に二大政党がある。なにか、小さな近代国家を彷彿とさせます。その上、産業立国主義でした。」

 

何か、非常に長州とは賢く、スマートな印象を与えます。しかし、そうであるが為に「長州藩は書生の集まりのようなもので、たえず百家争鳴しています。」という状況だったのです。今で言えばベンチャー企業のようなものでしょうか。

一方で、長州藩と同盟を組んで幕府を倒した薩摩藩(鹿児島県)。こちらの藩風は長州藩とは大きく異なっていたようです。司馬さんは以下のように言っています。

 

「そこへゆくと薩摩藩というのは、鉄の桶が水漏れしないように、秘密はまず洩れることはありません。藩風として、黙って死ぬというところがあります。」
「薩摩の藩風(藩文化といってよろしい)は、物事の本質をおさえておおづかみに事をおこなう政治家や総司令官のタイプを多く出しました。」

 

こう読むと、薩摩藩というのは、リーダーシップを持った指導者が引っ張っていくのをみんな黙ってついていくような組織だったと思います。創業家が強いオーナー企業のようなイメージがあります。

明治維新は、長州藩で育まれた近代国家に必要な要素を日本全体で実現するにあたり、薩摩藩が持っていたリーダーシップの強さが如何なく発揮された結果、成就されました。

加えてもう一藩ご紹介したいのが、明治維新を成し遂げた「薩長土肥」の一つの肥前の佐賀藩です。司馬さんの佐賀藩の紹介を読んでみましょう。

 

「薩長のほうから、佐賀をさそったのです。というより、懇請したのです。(中略)それは、佐賀藩が、日本でただ一つ重工業をもつ藩だったからです。」
「多くの藩士に物理や化学、機械学、あるいは造船、航海術を学ばせ、語学としては最初はオランダ語、その後は英語といったようなものを習得させていました。理科系の書物を読ませるためでした。」
佐賀藩は鎖国をしていた時から化学技術の振興に努め、重工業を発達させていました。現代でいえば、超最先端のテクノロジー技術をもった企業といった様相だったのです。
その技術力を活かして、対幕府戦争への勝利に貢献しました。

 

このような創業家が強いオーナー企業から、ベンチャー企業、超最先端テクノロジー企業といったような、一見すると相まみえないような多様な藩が力を合わせたことにより、明治維新は実現することができたのです。

現代においても、企業間の社風の違いというものが壁となり交流や連携といったことが進まないことが多いですが、大きな社会変革に向けては、多様な企業の強みを活かしていくことが必要だと思います。


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