「無我」とは、「自身の身体は我一人であるものでは無く、先人・父母の労苦の末にいただいた遺物である」と悟ることである。※山岡鉄舟の『武士道』より | コンサルタントコラム | 中堅・中小企業向け経営コンサルティングの小宮コンサルタンツ
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「無我」とは、「自身の身体は我一人であるものでは無く、先人・父母の労苦の末にいただいた遺物である」と悟ることである。※山岡鉄舟の『武士道』より

今週の「言葉」
2022.02.05

★人間としてもつべき道徳の根源を山岡鉄舟独自の仏教真理に基づく「武士道」を通じて学べる書

 

今週は明治維新における江戸無血開城の立役者にして剣・禅・書の達人としても有名な山岡鉄舟(やまおかてっしゅう、1836-1888年)の口述を記録した『武士道』(正式名称『故山岡鉄舟口述、故勝海舟評論、安部正人 編纂、武士道』)にある言葉です。本書も知る人ぞ知るリーダー必読書です。特に“正しい考え方”を磨くに最適な書の一つです。なお、鉄舟口伝の『武士道』は角川ソフィア文庫版で現代も読むことが可能です。

 

ところで、『武士道』といえば海外向けに書かれた新渡戸稲造のものが国内外で有名ですが、鉄舟の説く武士道はそれとは趣を異にしています。日本人の心の淵源を深く知りたければ、むしろ新渡戸稲造の武士道よりもこの鉄舟の説く武士道の方が適当かもしれません。鉄舟の武士道にはその根本に日本人が長きにわたって生活の傍らにあって拠りどころとした仏教の教えを原点としているからです。

 

 

◆「無我」の武士道と日本人の心
冒頭でお示しした「無我」こそ武士道の淵源だと鉄舟は語ります。この「無我」の境地はなかなか深く、理解が難しいかもしれませんが、冒頭に抄録した言葉がその意味を端的に教えてくれています。つまりいま私たちが在るのは、なぜか。自分はどこからきて、「どのような原因によって養成されてきたのか」を知れ、と鉄舟は説きます。それは先人父母が労苦の末に育んでくれた身体があるからであって、誰一人その真実から抜け出して勝手気ままに「自分の身体は自分のものだから何をするのも自由」という利己心に陥って人の道を踏み外すことがあってはならないとの警句です。以下、原文を転記します。

 

「老幼男女の区別なく、各自で発現本所にたちかえってみるがよい。各自の身体はみなこれは父母の遺体であって、しいて「われ」なるものはない。われわれ の身体はみなすべて父母の骨肉の分子である。今もしこれを父母に返還して しまったならば、更に一物も「我」というべきもののある道理がない。このように 道理をわきまえてくれば、わが身体は全部「われ」のものでないということが明瞭ではないか。」そして自分が「われ」と思っているこの身体は何であるか、このように続けます。
「ようやく発育したのは、父母の恩愛の結合物であって、その結合物の活動するもの、すなわち、これが各自の身体である。故にその父母恩愛の慈悲精神 を除き去れば、ただ一つだに「われ」というもののあることはない。これがすなわち無我の真理ではないか。」

 

こののち鉄舟は「わが心身は常に父母の心身と覚悟し、決して他念があってはならない。これがすなわち武士道の発現である。これがすなわち天地道徳の根源である。人の大道である。」と纏めます。こうした父母への報恩感謝の心(鉄舟の言葉では「父母の恩愛を奉謝する」)が、武士道の起点であり、「無我」の淵源だと語ります。

 

この『武士道』が鉄舟によって口述されたのは、ちょうど日本で初めて電灯が灯ったころで、まさに西洋化が進み文明開化真っただ中。そうした中で、科学を取り入れることは大切だが、日本人として忘れてはならない、失うことがあってはならない人の道の本質を鉄舟は懇々と説きます。現代を生きる私たちの朝は、様々なニュースで覆われます。その一つに、ほぼ毎週と言っていいほど親が子を、子が親を殺傷するような事件の存在を見聞します。本当に悲しい、悲しすぎることです。

 

 

私がお仕事をさせて頂いているお客さまで、岡山県のとある企業様では、社員の誕生日にお線香をプレゼントしています。先人への感謝報恩の心を途切れさせないこの取り組みは、日本文化の根源にある大切な精神を後世に受け継ぐことに貢献していると感じます。経営者から私の知る限りの社員お一人おひとりに至るまで人間性が豊かで、誠実に学び実践する様子が印象的なお客さま企業です。創業者の方が旧日本帝国海軍のご出身であり、かのミッドウェー海戦の生き残りでもあって、企業文化の礎にその人間愛と至誠の精神を軸として置いておられます。鉄舟がこの『武士道』を通じて私たちに遺そうとしてくれた大切な何かを現代にも顕してくれている好例として、ご紹介させて頂きます。

 

 

鉄舟口述の『武士道』は、「武士道の要素」「武士道の体用」「武士道の起因及び発達」「明治時代以後の武士道」「武士道の精華」「武士道の諸義」そして最後に「日本女子の武士道」といったテーマで口述が収められ、その合間に盟友である勝海舟の評論が付され(これがまた趣深い)、多様な角度から武士道の本質が語られます。特に「明治時代以後の武士道」や最後の「日本女子の武士道」は、現代に生きる私たちに近似した課題感のもとで書かれ、後者は女性の方には縁遠いと思われがちな武士道や「志(こころざし)」も実は女性こそが育み受け継いできたものだと教えてくれる内容であり、現代を生きる私たちを啓発するもの多々があるように思われます。かの西郷隆盛をして「これぞ至誠の人物」と言わしめた偉人、山岡鉄舟の『武士道』、機会あらば是非ご一読を。


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