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日銀や政府は給与が伸び悩む中、来るべきインフレに対応できるか

小宮一慶のモノの見方・考え方
2022.02.08

世界で消費者物価が急激に上昇しています。米国では前年比で7%、欧州では5%程度、日本をのぞくアジア各国でも1.5から4%程度の物価上昇を記録しています。一方、日本はいまだに0.5%程度ですが、これには理由があります。ワクチンの接種の遅れなど、コロナ対策が後手後手に回り、経済の力が弱いこともありますが、最大の原因は、菅内閣時に実施された携帯料金の値下げが大きく影響していることです。もし、携帯料金の値下げがなかったら、現状でも2%程度の物価上昇が起こっているという試算もあります。

 

そして、この携帯料金値下げの影響は、4月以降にはなくなります。値下げから1年以上経ち、前年比の物価上昇率に影響を及ぼさなくなるのです。

今回のインフレは、多くのマスコミが報じているように、「悪いインフレ」です。輸入物価が前年比で40%以上上がり、その影響で企業の仕入れである企業物価が9%程度上昇しているため、そのコストアップを消費者物価にも反映せざるを得なくなった「コストプッシュ型」のインフレだからです。値上がり分の大半は、海外に資金流出します。しかも、企業は仕入れの値上がり分をすべて最終消費財に転嫁できているわけではないので、企業収益をも圧迫しているのが現状です。

「良いインフレ」は給与増などで需要が増加する「デマンドプル型」のインフレですが、日本ではそれが程遠い状況です。

 

給与の状況を、厚労省が発表している「現金給与総額」の統計で見ると、全産業では、コロナが蔓延した2020年には下がりましたが、2021年ではその下がり分を十分にはカバーしきれていないのが現状です。飲食店のパート従業員さんなどの不足の話をよく聞きますが、有効求人倍率も現金給与総額も全体で見た場合には、頭打ちか弱い状態が続いています。

 

岸田政権は定昇込みで3%の賃上げを産業界に臨んでいますが、その水準達成はなかなか難しいのではないでしょうか。そうした中、インフレがやってくる可能性が高いのです。下手をすれば、景気停滞下のインフレである「スタグフレーション」の可能性もあります。

 

こうした中、日銀にはもう打てる手はほとんどありませんし、そのわずかな手を打ったところで景気に大きな影響を及ぼすこともまずないでしょう。米国の中央銀行であるFRB3月の利上げも示唆しています。英国の中央銀行はすでに利上げを行っています。欧米では中銀の資産圧縮も視野に入っていますが、日銀は他の中銀程度の金利上げや資産圧縮を行うことは現状ではなかなか難しいと考えます。

 

コロナなどの影響などで日本では景気が十分に回復しない中でインフレが起こった場合には、日銀も政府も十分なインフレ対策と景気対策を打てないことも考えられ、景気の下押し圧力となることが懸念されます。また、インフレが起こり、今はなんとかコントロールしている長期金利の上昇を余儀なくされた場合には、500兆円以上抱える国債に大きな含み損が生じることが懸念されます。

 

政府が抱える膨大な財政赤字と、それを支えるために多額の国債を抱えるという日銀の構図を変えていかない限り、政府も日銀もフリーハンドは小さいままでしかありません。そして、この状況を脱するには究極的には「成長戦略」しかありませんが、痛みを伴なう改革を今の政府が断行できるかと言えば、期待薄なのは残念なところです。


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