4月1日に日銀から3月の全国企業短期経済観測調査(以下「日銀短観」)が発表されました。日銀短観とは、日本銀行が四半期ごとに公表している統計調査で、民間企業を対象とした調査による実績・マインドの両面から景況感を探るものです。特に企業の景況感を指標化した業況判断指数(「業況判断DI」)は株式市場等、広範な影響を与えます。
2020年6月以降、業況判断指数は改善傾向にありましたが、今回の日銀短観では7四半期ぶりに悪化しています。今回はロシアによるウクライナ侵攻後初ということもあり、地政学リスクや資源価格高騰が意識されたと思いますが、製造業、非製造業別にみてみたいと思います。
製造業では、原材料価格上昇による紙・パルプや窯業・土石製品、化学等の景況感悪化が目立っており、また半導体等の部材の調達難、コロナ感染再拡大による工場停止等が製造業全体の景況感を悪化させています。
また、仕入価格の上昇ほど販売価格が上昇しておらず、価格転嫁が十分に進んでいないことも伺えます。こうしたことから、見込みの景況感も現状より更に悪化しています。
日銀短観とは別ですが、円安がかつてほど製造業に恩恵をもたらさなくなっています。かつては円安は輸出企業の収益を大きく改善しました。しかしながら、製造業の海外生産比率が高まっていることにより、円安の収益改善効果は限定的になっています。海外生産比率は11年度が18%であったのに対し、19年度に23%となっています。
そうした中で、原材料価格の高騰が円安の収益改善効果を打ち消すような収益見込みが各社から出ています。例えばブリヂストンは原材料価格の高騰により1,450億円の減益となるのに対して、現在の為替水準による増益効果は440億円となる為、大幅な減益が見込まれます。同じような事象はヤマハ発動機、パナソニック等、多くの製造業の見込みでも示されています。
次に非製造業についてですが、こちらも景況感が悪化しています。
まん延防止等重点措置の解除は明るい材料だと思います。しかしながらコロナの感染者の高止まりが続いており、予断を許しません。加えて、原材料の高騰により物価が上がっても賃金が上がっていない為、個人消費の停滞が懸念されるところです。
このような景況感は雇用環境の悪化も懸念されるところです。3月29日に厚生労働省から発表された2月の新規求人数は82万人と前月から4.8%減少していました。これは半導体や木材等の原材料不足による製造業や建設業の回復鈍化によるものですが、このまま景況感が悪化すると自ずと新規求人が減少する懸念があります。それは更なる個人消費の低下、非製造業の景況感悪化に繋がる恐れがあります。
いずれにしても今年度も見通しが明るくない中では手元資金を厚めに持つ等、急激な環境変化にも対応する準備が必要だと思います。コロナ禍からはじまる長期間に渡って厳しい環境が続きますが、早く前向きになれる環境が訪れることを祈るばかりです。
参考記事:
日本経済新聞
「大企業の景況感悪化、資源高が重荷 3月日銀短観」(4月1日)
「短観、企業心理の冷え込み鮮明 22年度計画は減益目立つ」(4月1日)
「円安の恩恵薄い製造業、資源高が減益要因に 日銀短観」(4月1日)
「新規求人の回復鈍く、2月4.8%減 原材料不足が重荷」(3月29日)