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システムが人間の上に君臨することは許されない

今週の「言葉」
2022.05.20

「システムが人間の上に君臨することは許されない」

―イビチャ・オシム

 

今週の「言葉」は、今月1日に惜しくも逝去された、元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシムさんの言葉です。「サッカーは人生の大学だ。医学や化学を学べる大学はあるが、人生を学べる大学はない。」と語っていたオシムさんは、リーダーにとって求められる人間観や人生観といった物事を捉える際に必要な根本的かつ多面的な考え方を多く教えてくれます。

直接その薫陶を受けたサッカー選手や関係者は一様に「サッカーと同時に人生や人間としてのあり方を教わった」と語ります。オシムさんは1990年代に内戦状態に入り解体された旧ユーゴスラビアの代表選手でもあり、最後の代表監督でもありました。代表選手時代には東京オリンピックにも出場しています。生まれ育った祖国が内戦に明け暮れ、多くの同胞の命が失われた現実を目の当たりにしたことは、オシムさんの人生に大きな影響を及ぼしたことは想像に難くありません。

オシムさんの語ったマネジメントや人間に対する考え方には、マネジメントの父、ピーター・F・ドラッカー(ユダヤ人として二つの世界大戦を目の当たりにしている)とも通じる歴史観、人間観が表れているといつも感じます。

 

「システムが人間の上に君臨することは許されない」という言葉は『オシムの言葉』(集英社文庫)にある一節です。その前段では次のように語っています。「(記者から試合のシステムや戦術を尋ねられ)無数にあるシステムそれ自体を語ることに、いったいどんな意味があるというのか。大切なことは、まずどういう選手がいるか把握すること。個性を活かすシステムでなければ意味がない」と。

また続けてその真意を次のように語ります。「とにかく毎日選手と会っているわけだから、毎日、選手から学んでいる。(中略)私の仕事はスイカを売るわけではなく、そういう生きている人間と接しているわけだから」と。

選手の家族構成などのプライベートも出来る限り把握し、一人ひとりのその日の心理状態まで把握することまで努めていました。出来る限り所属する選手全員を試合に出場させ活かすこともオシムさんの特徴でしたが、その根底にはどのような思いがあったのでしょうか。

オシムさんの身近でコーチを務めた江尻篤彦氏はこう語ります。「選手の家族のことまで気にしながら、メンバーを選んでいました。今、この選手を外したら、子どもが何人もいるのに彼はオフにクビを切られるかもしれない。それなのに安易に『調子が悪いから外せ』なんてよく言えるなと言われたこともあります」と(出典:518日付NumberWeb記事)。

マネジメントにこのような人間への尊重を根本とする考え方はドラッカーにも共通します。「人のマネジメント」においてドラッカーは『マネジメント』の中で次のようにその本質を説きます。

  • その第一は、仕事と職場に対して、成果と責任を組み込むことである。
  • さらに、共に働く人たちを生かすべきものとして捉えることである。
  • 最後に、強みが成果に結びつくよう人を配置することである。

オシムさんは日本及び日本人についても多くの至言を残しています。その一つにドラッカーの言う「責任」の欠如にも触れていました。そして人を活かすことに腐心しました。そうして指揮を執ったすべてのプロチームでトーナメント優勝という成果をあげました。まさに悲智円満の類まれな指導者でした。

オシムさんの逝去の報に、どこか父祖を失ったかのような思いを抱きます。感謝の念と共に、あらためてご冥福をお祈りいたします。


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