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日銀はなぜ緩和策をとり続けるのか

小宮一慶のモノの見方・考え方
2022.07.26

主要国の中央銀行がインフレ対応のために引き締め策を継続しています。米国の中央銀行FRB3月に0.25%、5月に0.5%、そして6月にはなんと0.75%の利上げを行いました。市中からの資金の吸い上げも行っています。今週の焦点はFRBの利上げ幅が、0.75%か1%かというところです。英国もスイスも利上げを行い、欧州中央銀行も今月0.5%の利上げに踏み切りました。

 

そんな中で日銀だけが、緩和策をとり続けています。理由はなぜでしょうか。日銀の説明では、日本は欧米に比べてインフレ率も低く、景気が弱いので緩和策を続けるということです。確かに、日本のインフレ率(6月で2.1%)は欧米の8から9%台に比べればかなり低いと言えます。景気が弱いからです。しかし、日本の企業物価(卸売物価)は前年比で9%程度の値上がりをしており、これは欧米とあまり変わりません。企業は仕入れの値上がり分を十分に最終価格に転嫁できていないのです。

 

しかし、それでは企業はもちませんから、最終消費財の値上げがこのところ相次いでいます。それでも日銀は重い腰をあげません。インフレ抑制に動かないのです。また、年初に比べ大幅に円安となり、このこともエネルギーなどの輸入物価の上昇に影響しています。そして、日米金利差が広がるほど円安の可能性が高まります。

 

それでも日銀が緩和を続ける理由はなぜでしょうか。講演などでこの質問をするとよく出る答えは、「1000兆円を超える負債を政府は抱えており、その利払いが増えるのを抑えている」というのがあります。確かにそうですが、利払いが増えても、その分は国債の保有者のところに行き、日銀が国債のうち約540兆円を保有していますから、利上げ分のかなりの部分は日銀の儲けとなるだけです。また、国債の9割は国内で消化されていますから、政府の利払いの増加は、民間金融機関などの国債の保有者を利することとなります。

 

それでは、利上げをしない本当の理由は何でしょうか。私は、日銀が保有する国債の価格の下落を避けたいということではないかと考えています。先にも述べたように、日銀は540兆円程度の国債を保有しています。国債などの債券は市中金利が上がると、利回りを調整するために、自動的に価格が下落します。(少し説明がややこしくなるので、ここでは金利が上がると国債価格は自動的に下がると考えてください。)

 

日銀の純資産は3月末で4.7兆円、自己資本比率は0.6%程度しかありません。もちろん、日銀はお金を生み出すことができますから、それでも倒産するということはありません。

 

しかし、多額の国債を保有しており、さらに株式までETFという形で持っていますから、その価格下落があると、実質的に「債務超過」ということになりかねないのです。おそらく0.25%程度の金利の上昇でも、国債の価格下落のための引当金を積んでいるものの債務超過の可能性があります。

 

黒田総裁の前の白川総裁のころまでは、こうした事態を避けるために「日銀券ルール」というものがありました。国債などの価格変動する金融商品に関しては、日銀は日銀券の発券残高程度までしか保有しないというものです。このところの発券残高は約120兆円です。それを大きく超えて、国債などを保有しているのです。

 

日銀券は、原価数十円の紙です。それを「1万円」だと皆が信じているのは、日銀に信用があるからです。その中央銀行が債務超過というのは、問題が大きいことは言うまでもありません。

 

インフレは今年いっぱい程度は続きそうですが、日銀は利上げに踏み切れないと思います。踏み切ったとしてもせいぜい0.25%程度が限度で、それも難しいと私は考えています。インフレや円安を黙認する日銀の政策がどこまで通用するのかに注意が必要です。


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