米国労働省が8月5日に発表した7月の非農業部門雇用者数は前月から52万8000人増となりました。この指標は世界中のエコノミストたちが常に注目する数字で世界の経済指標の中でも最重要指標と言っても過言ではありません。
私はコロナ禍になり米国の非農業部門雇用者数をあるポイントに注目してチェックしていました。
それは何かというと、コロナ禍で失われた雇用が元の水準に戻るタイミングはいつかということです。リーマンショックを含めた2008年2月~2010年2月の景気後退時には約870万人の雇用が失われ、その減少分を取り戻すのに4年2ヵ月を要しました。今回のコロナ禍では2020年3月・4月の2ヵ月間で約2200万人もの雇用が失われるという史上稀にみる大規模なレイオフが実施されました。2020年5月以降、非農業部門雇用者数はほぼ一貫して増加しており、速報値ベースではありますが、今回7月の増加分でコロナ禍の減少分を全て取り戻しました。期間としては2年3カ月となり、リーマンショック時と比べ大きな減少分を早いペースで回復したことになります。7月時点で非農業部門の就業者数は1億5253万人と、2020年2月の1億5250万人を超えて過去最高になり、失業率も3.5%と半世紀ぶりの水準だった2020年2月以来の低さとなっています。
米国の雇用は数字だけ見ると絶好調と言えます。しかしここにきて、フォードが最大8000人の従業員を解雇すると報道されたほかウォルマートでも約200人の従業員を解雇するなど一部の企業では雇用姿勢に変化が見えています。また3月下旬に週16万件強と約53年ぶりの低水準だった新規失業保険申請件数は、7月下旬には26万件まで増加しており、先行きは楽観視できない状況です。
米国商務省が7月28日に発表した4~6月期の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率マイナス0.9%となり、1~3月期のマイナス1.6%に続いて2期連続のマイナス成長となりました。4~6月期の内訳を見ると住宅投資が前期比マイナス14.0%と急激に悪化しており、急激な利上げの影響で住宅ローン金利が上昇した影響が出ていることが分かります。
世界的に懸念されているインフレについては、7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.5%と3カ月ぶりに伸びが鈍化しました。伸びが鈍化した大きな要因はガソリンで前年同月比44.0%と前月の59.9%から下落し、前月比でもマイナス7.7%となりました。しかし一方で、一度上昇すると下がりにくい粘着性のある物価の代表である住居費は7月も継続的に上昇しています。また前述した活発な雇用の状況から時間当たり賃金は前年同月比5.2%増と増加基調が続いており、賃金上昇がサービス価格に転嫁されるはずです。このような状況からインフレの懸念は当面続くと考えられます。
インフレと経済の減速が同時に起こるスタグフレーションが懸念される中、FRBは景気状況、雇用、物価の様々な状況を見ながらの利上げ判断をすることになります。9月のFRB連邦公開市場委員会(FOMC)でどのような決断がされるのか注目です。