今回は「ビジョンの価値」について、事例も交えてお話をさせて頂ければと思います。
小宮が「散歩のついでに富士山に登った人はない」という話をすることがあります。これは「決めないとなれない」、「決めるとその確率をグッと上げることができる」ということを言っているわけですが、このことを経営に置き換えてみると「どこに行きたいのか、どこまでいきたいのかを決めないとそこにはいけない」と言えるとかと思います。
「どこに行きたいか、どこまでいきたいか」というのは言い換えると「中長期の自社のあるべき姿」と言え、私はこれをビジョンと呼んでいます。ですので、散歩のついでの経営というのは「ビジョンなき経営」と捉えることができ、さらにこの経営を「なりゆきの経営」と呼んでいます。
これまでの私の経験から「なりゆきの経営」の特徴を挙げると、成長スピードが遅い、成長率が低い、利益が上がらない、後手になりがち、社員が成長しない、不満を言う社員が多いなどがあり、結果、会社のステージが上がっていないと感じています。
次の事例は、なりゆきの経営から脱却を図ろうとしている会社のお話です。A社の経営者からの依頼は、お客さま第一の浸透を図りたいということでした。その要望に応え、浸透を図る取り組みを数年行いました。その後、社長からこれまでの成果について分析してほしいという要望を受け、社員へのヒアリングを実施。その結果、お客さま第一については、言われていることやっているというレベルで、自分から率先してというレベルには至ってはいませんでした。また社員に意見を求めたところ出た意見や提案は、今あるマイナスをどうにかしてほしいという「マイナスをゼロにするもの」。一方で、お客さまに対してこんなことがしたいなどと言った「ゼロからプラスにする意見や提案」は、ほぼありませんでした。
そうしたヒアリング結果からお客さま第一の取り組みがなかなか進まない原因を分析。ひとつの結論として内部志向になっていることだと考えました。また、その要因が次の2つではないかと考えました。
①仕事が作業になっている。
社員の方々は素直な方が多く、言われたことはしっかりやるのですが、それ以上はやらない。一方で仕事は成果をあげることが目的。その視点や動きに欠けていました。
②ビジョンが示されていない。
どこを目指すのかがはっきりしていなければ、前向きな意見は出しようがないとも言えます。どこを目指すのかがはっきりしているからこそ、そこへ向けて「こんなことをやったらどうか」、「もっとこうしていきたい」という前向きな意見が出てくるのですが、どこを目指すのかが欠けていました。
そしてこの分析結果を社長伝え、ビジョンをつくることを提案し、プロジェクトメンバーを集め、そのメンバーでビジョンづくりを行いました。そこで整理して決めた10年後のビジョンを全社員に社長から発表。その後、社員の方々に社長の話を聞いてどう感じたかということをヒアリングしたところ、もちろん不安の声もありましたが「自分たちが今後、どのようなことに力をいれていけば良いかということがイメージしやすくなった」、「自社の強みを活かせば、もっとこんなこともできるのではないか」といった以前になかったお客さまや地域といった外部に対しての前向きな意見が出てきたことがとても印象的でした。
この事例を通して実感したことは、今までなかなか変わらなかった内部志向の考え方が、ビジョンを示すことによって変わる可能性を示したことでした。
なりゆきの経営を続けると組織が硬直化していく傾向になること、そしてビジョンをつくると内部志向から外部思考への転換点を手に入れることができ、社員の気持ちや意識が前向きに転換するきっかけになることを今日のお話を通して感じて頂けましたら何よりです。