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日本と米国の雇用政策の違いと雇用の流動性の必要性について

経済トピック
2023.03.03

日本でも雇用調整助成金の割増支給(緊急雇用安定助成金)が3月末で終了します。今まで新型コロナウィルスの影響などで企業全体の稼働が上がらなかった場合においても、従業員に休業補償をすることができていましたが、コロナも収束しつつある現段階においては、いよいよ事業全体の稼働を上げなければ、雇用の維持がままならない状況になってきました。

 

このことを踏まえながら、日本とアメリカの雇用の流動性や雇用政策について比較してみたいと思います。

日本とアメリカの失業率の推移を見てみます。

 

 ※日:総務省 米:労務省データより作成

 

特に注目するべきは2020年における失業率の動きです。

日本はピークでも202010月の3.1%です。一方で、米国の失業率は2020年の4月の時点で14.7%となっています。

 

米国も日本もともに、コロナの急激な拡大によって、経済が急速に収縮した時期です。

米国においては、この際に、従業員を解雇して失業率が上がっています。一方で、日本企業は、従業員を解雇せずに、雇用調整助成金等で休業補償等の形をとりながら雇用を維持してきました。

 

それぞれの国には、それぞれの国の文化や伝統があり、軽率に判断するべきことではありませんが、日本と米国における事業のイノベーションや生産性の違いについては、この失業率の関係にもあるように思います。

 

米国においては、会社の経営状態が芳しくない場合には、すぐに首を切られてしまう緊張とリスクと隣り合わせです。だからこそ、自分自身の能力やスキルを磨いて、常に社会や会社にどのように貢献する必要があるかと言うことを能動的に考える文化があるのだと考えます。

一方で、日本はというと、いかに会社に守ってもらうかという意識がどうしても染み付いてしまうのではないでしょうか。

組織が働く人を活かし、幸せにすることを経営の根本目的の一つに据えることは当然のことではありますが、活かされるべき個人の意識が高まる社会であることも、社会全体がパフォーマンスを上げるためには必要なことなのだと考えます。

 

本来的に言えば、人は、従業員は、1人の自分という存在の経営者であり、自分自身が持っている強みを会社や社会でいかに貢献させるか、自分という商品サービスをいかに顧客である社会や会社に選んでもらえるかということについて能動的である必要があります。

 

これを否が応でも、意識せざるを得ないのが、米国の雇用政策であるとも言えるでしょう。

一方で、日本の場合はどうかというと、原則的に雇用が維持されるため、個人はより会社に依存する傾向が高まることになります。

これは、メンバーシップ型やジョブ型と言う雇用形態にも現れることで、日本は業務内容やスキルで判断されるジョブ型というよりも、企業固有の結合体としてのメンバーシップ型の雇用が中心であり、その分ロイヤリティーや経営理念に対する共感を生みやすいという強みもあるのだと思います。

 

今までの日本の雇用政策が、このように雇用維持を最大限尊重するものであったため、急激な軌道修正は大きなショックと不利益を生むと考えられるため、極端な判断を避けるべきと思いますが、ある程度の雇用の流動化が実現しなければ、個人の経営者意識(自分自身の強みという商品サービスをいかに社会や会社に能動的に活かすか、という意識)というものは、どんどんと停滞してしまう可能性があります。

 

個人が望むと望まざるとにかかわらず、これから年金等の社会保障制度や日本の財政などを鑑みると、人が働く必要がある期間が伸びていきます。このような場合に、1社だけで、そして単一事業だけで、自分自身の強みで貢献できる期間は限られると考えた方が良いでしょう。書籍「LIFE SHIFT」にもあるように、人生100年とまでは言わないまでも、いくつかのキャリアを能動的に歩んでいくスタイルが個人にも求められる時代に入ります。

 

解決策の一つとしてあるのが北欧モデルといわれるもので、トランポリン経済と言われています。

解雇規制を緩めつつ、人材の再雇用に向けた教育支援や生活支援を充実させる政策です。労働市場からこぼれ落ちた人も、やる気さえあればトランポリンで跳ね返るように舞い戻れるという意味で「トランポリン」。訓練や学び直しの場を整えるのが政府の仕事で、研鑽を積む失業者に手当を多くして、何もしない人には減らすような制度であるということです。

 

今回の雇用調整助成金の割増の打ち切りは、企業経営においては痛い出来事ですが、今後の社会全体を捉えた時に、個人の意識をもう少し緊張感を持って、自分自身の強みを社会や会社に対して生かすという意味においても必要なステップなのだと考えます。

 

経営者の方や、経営陣の方だけがハンドルを握っているわけではなく、従業員の方々も、自分自身の人生というハンドルを握っているはずです。その意識を改めて自覚をしていただきながら、会社としては働く人を生かし幸せにする、働く人は能動的に働いて組織に社会に貢献する、と言う双方の意識を持って向き合いたいものですね。


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