「義を明らかにして 利を計らず」 | コンサルタントコラム | 中堅・中小企業向け経営コンサルティングの小宮コンサルタンツ
loginKC会員専用お問い合わせ

コンサルタントコラム

ホームchevron_rightコンサルタントコラムchevron_right「義を明らかにして 利を計らず」

「義を明らかにして 利を計らず」

今週の「言葉」
2023.11.02

-山田方谷『理財論』より

今週の「言葉」は、幕末の備中松山藩(現岡山県)の藩政改革で有名な、今も多くの経営者から尊敬を集める山田方谷の言葉です。明治政府に参画していれば、かの渋沢栄一翁にも勝るとも劣らない活躍をしたであろうと称される山田方谷の言葉です。

戦中・戦後の政財界の指南役として著名な陽明学者、安岡正篤氏をして「古代の聖賢は別にして、近世の偉人と言えば、私はまず山田方谷を想起する。この人のことを知れば知るほど、文字通り心酔を覚える」と言わしめています。やはり山田方谷も幕末維新のリーダーの生みの親、佐藤一斎先生の門下生であり、かの佐久間象山とやり合うほどの人物でした。

「義」に基づくビジョンを明らかにして未曽有の変革を成し遂げる

山田方谷の人物と偉業を紹介するには紙幅の関係上、本コラムでは語り尽くすことはできません。今回は現代の経営に不足していること、ビジョンを実現する為に必要なことについて、山田方谷先生の実践から何かヒントをご提供できればと思います。先ず藩政改革の実績だけ先にお示しすると下記の通りです。

・改革前夜の備中松山藩の収入は実質2万石(1石=1両=約10万円=20億円)

・いっぽう大阪商人からの借金は10万両(負債100億円)

50年の長期返済の約束を取り付けるも、実質7年で完済する

・その上、余剰金10万両(100億円)を生み出す

上記はまず出るお金を抑えるのみならず、危機にあるからこそ積極投資を行い備中鍬をはじめとする殖産興業を行ったこと、いわばケインズに先駆けること100年、世界恐慌時のニューディール政策(積極的な財政出動など)とほぼ同じような手法に加え、増税ではなく減税(年貢の減免)まで行っています。

この大変革のビジョンを表したのが冒頭の『理財論』です。「義を明らかにして利を計らず」とは、「義」とは人としての正しい道、自分のことよりも世の為人の為という利他心をもって行動するという意味です。つまり世の為人の為の全体最適を先にし、そのための全体像を示し、この思想に基づいて行動すれば「利」は自ずと後からついてくるということです。まさに「先義後利」ですね。

ビジョンも戦略も自分本位・自社本位ではうまくいかない

仕事柄、様々な会社のビジョンや変革を成し遂げようとするリーダーの方と接します。そこには売上目標や利益目標は書かれていることが多いのですが、肝心かなめの思想哲学がありません(因みに、ドラッカー先生の目標管理にも売上げ目標はありません)。あとはアクションの羅列となるのですが、何のために、どのような思想で未来を具体的に創るのか、先義後利になっていないことが多いものです。

決定的に不足するのは、具体的に誰を幸せにする事業なのか、その具体的な思想と全体像です。お金だけでは人の心は動きません。心が動かなければ人は力を最大限に発揮はしません。数字を超えた「人間として大切な何か」がそこに明らかにされていなければなりません。とはいえ、自利利他として実際に利益があることを実感できなければ変革は続きません。利益はお客さま、人々に喜ばれて、その課題を解決してのみ得られます。すべては直接その声を聴く事です。方谷はその実践者でもありました。その気になって愚直な実践・行動が必要です。先義後利を強烈に信じることです。陽明学の基本基調である「知行合一」という実践主義も必要です。そのためにはリーダーの率先垂範(やってみせる)が必須です。

その覚悟、どこから来るのでしょう。山田方向が大切にした言葉にもう一つ「至誠惻怛」(しせいそくだつ)があります。「真心(誠)を尽くし、慈しみを以って生きる」の意です。半年間方谷の下で学んだ長岡藩の河合継之助に最後に贈った言葉でもあります。「至誠にして動かざる者は未だこれあらざるなり」ですね。

ビジョンを掲げて成り行きではない新たな発展の道を行くには、決して諦めない至誠と人を慈しむ心が統合されたリーダーの姿がそこにあることは、現代も変わらぬ鉄則です。因みに方谷は晩年、大久保利通から再三明治政府の閣僚にスカウトされていますが、それを固辞し、人財の育成に努め、73歳の生涯を閉じました。そして死してなお、その教えに学び実践する多くのリーダーを輩出しています。


お問い合わせCONTACT US

コンサルティング、セミナー、KC会員についてなど、
お気軽にご相談ください。