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「巧詐(こうさ)は拙誠(せっせい)に如しかず」

今週の「言葉」
2022.02.18

「巧詐(こうさ)は拙誠(せっせい)に如しかず」※『韓非子』より

 

★性悪説論者にしてリアリストの韓非も「誠実さ」の重要性を語る
今週の至言は知る人ぞ知る性悪説に基づく現実主義的君主論として知られる『韓非子』にある言葉です

(出典:金谷治訳注『韓非子 第二冊』岩波文庫)。

岩波文庫版の『韓非子』は全部で4巻ありますが、そのうちの第2巻「説林上」に記されている言葉です。意味は次のようになります。
「巧妙な偽りごとは不器用な真心には及ばない」

ところで、韓非と言えばこれまた冷徹なリアリスト(現実主義者)として知られるマキャベリと双璧にされる人物です。

つまり、政治目的のためにはいかなる反道徳的な手段も許される、という一面がよくクローズアップされて論じられます。

 

例えば孔子とその弟子たちの言説集である『論語』が「人間としてこうありたい」という理想主義的な思想である一方、この韓非の著した『韓非子』は現実主義に基づく思想として対比されます。

もう少し韓非子について敷衍すると、その思想に最も影響を与えたのは荀子(じゅんし)という思想家です。

荀子は孔子の教えを継承しつつ、同じくその継承者である孟子が“性善説”を唱えたのとは逆に「人の性は悪、その善なるは偽なり」として“性悪説”を唱えた人物です。現代でも人間観を語り合う上で議論となる両説です。重要なのはその性悪説の上に立つ韓非子であっても、人間の真心である「誠実さ」が「功詐」(功利主義的な考え方、人を巧みに欺くこと)よりも優っていると認めていることです。

 

孔子や孟子が言っているなら、いかにも“らしい”ですが、韓非子によっても語られているところに、この「誠実」であることがいかに普遍的な人間としての正しいあり方なのかが際立って意識させられます。

 

 

◆経営や仕事でも「至誠」を大切に
私がお仕事をさせて頂いている複数の“良い会社”では、理念、社是、或いは創始者の遺訓としてこの「誠実さ」を掲げて仕事で実践しています。

言い換えれば人間が持っている真心(まごころ)を尽くすということです。これを一言で「至誠」(しせい)と言います。私の仕事への信念にして吉田松陰先生も生涯大切にされた孟子の言葉に「至誠にして動かざる者は未だこれあらざるなり」(真心を尽くして動かされなかった者はいない)との言があります。孟子はその著『孟子』の中で、孔子が人間として最も大切な徳性として挙げた「仁」(他者への思いやり)の要素を更に二分して「仁」と「義」に分けて捉えました。仁は元々人間に具わっている他者への愛情、つまり人に喜んでもらいたいという徳性を指すのに対して、「義」はあらゆる人間が世の為人の為に尽くそうとするときに行くべき正しい道のことだと孟子は語っています。つまり他者のために、より良い社会の為に自分の利己心を超えて尽くしましょう、という正しい考え方のことを言っています。仏教の自利利他にも通じる考え方です。

 

人生も経営も、或いはあらゆる仕事というものも、家族、お客さま、或いはパートナーという他者との関係性の中で成果を上げます。マネジメントの原理原則です。その他者に真心を尽くすこと、この至誠の精神が、現実をより良いところへ導くという真理を、いま以って後世にも自らの姿で継承していきたいものです。煩悩の塊である一人の人間として、意識徹底し行動を積まなければ分からない世界でもあります。真心だけを抱いてやり抜くのは難しい。人間としての完成はまだまだ先と日々反省しきりですが、しかしこの『韓非子』にもあるように、またドラッカーも言うようにたとえ仕事ぶりが頼りなくとも、この誠実さ、至誠の仕事を積み重ねたいと願うところです。

 

因みにドラッカーはこの誠実さ(原著ではintegrityと表現、ダイヤモンド社版『マネジメント』では「真摯さ」という言葉で翻訳)について、次のように語っています。現代を生きる私たちへの補足としてご紹介し、本稿を閉じます。私の知る中でもドラッカーが最も厳しい口調で語る一節です。

 

真摯さ(integrity)なくして組織なし
「真摯さを絶対視して、初めてまともな組織といえる。それはまず、人事に関わる決定において象徴的に表れる。真摯さは、とってつけるわけにはいかない。すでに身についていなければならない。ごまかしがきかない。ともに働くもの、特に部下に対しては、真摯であるかどうかは二、三週間でわかる。無知や無能、態度の悪さや頼りなさには、寛大たりうる。だが、真摯さの欠如は許さない。決して許さない。彼らはそのような者をマネジャーに選ぶことを許さない。」

 

さらに、真摯さの欠如を定義したうえでこう語ります。
「知識もさしてなく、仕事ぶりもお粗末であって判断力や行動力が欠如していても、マネジャーとして無害なことがある。しかし、いかに知識があり、聡明であって上手に仕事をこなしても、真摯さに欠けていては組織を破壊する。組織にとってもっとも重要な資源である人間を破壊する。組織の精神を損ない、業績を低下させる。」(出典;P.F.ドラッカー『マネジメント・上』ダイヤモンド社)

今後も古今東西、三世十方を貫く原理原則や正しい考え方を先人の至言を以ってご紹介して参りたいと思います。

 

最後までお読み頂き有難うございました。


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