3月10日の日経新聞一面の記事の中に火災保険料の値上げの記事がありました。
具体的には損害保険大手4社が10月から住宅向けの火災保険料を全国平均で11~13%程度引き上げるとのことです。
この保険料の値上げには、地球環境変化によるリスク、インフレによるコスト上昇懸念が内包されていると考えられます。
保険に加入する人の立場としては、「支払う保険料(A)」に対して「災害による損失から被る被害の期待値(B)」が上回ってなければ保険に入る意味がないでしょう。
一方、保険会社も事業経営を行っているため、「加入者からの保険料の収入総額(Aの総額)」よりも「災害等による保険金の支払い総額(Bの総額)」が低くなければ経営が成り立たないことになります。つまり、災害等による保険金の支払いの発生確率が一定程度低いことが前提になっています。
行動経済学でいうところの人間の損失回避性(プロスペクト理論≒人間は損失を過大に見積もる傾向にある)と現実のギャップによる利ザヤを得るビジネスといえるかもしれません。
ちなみに、保険に加入した人が災害にあったときに保険金を受け取るためには保険会社の健全性が不可欠であり、その健全性を図るソルベンシー・マージン比率という指標があります。細かい話は割愛しますが、要は通常の予測を超えるような危険に対して保険会社の財産(自己資本)が十分であるかということです。企業経営の自己資本比率の考え方を不測の事態の支払い能力と関連付けた指標といえるでしょう。
今回、保険会社が保険料を値上げし、被保険者がそれでも保険に加入をし続けるということは、今後における災害の発生リスクを更に高く見積らざるを得ないという判断をお互いにしているということになります。
また、保険料の改定は本来それほど頻繁に行われるものでもないため、この値上げは今後中長期にわたってこの傾向が続くことを示しているとも考えられます。その傾向とは何でしょうか。簡単にかいつまんでリストアップしてみましょう。
①自然災害による損害リスクの上昇
言うまでもなく昨今台風や火災などによる自然災害が頻発しています。これは構造的な環境変化によりもたらされたものであり、今後も引き続き増加が想定されると考えられます。例えば、温暖化が進むことによって台風の頻度は減るが大型化するというような研究結果が出ています。
②インフレによる資材の高騰リスク
コロナによる需要と供給の一時的なアンバランスによるインフレと思われていたものが、構造的にある程度の中期・長期的な構造によるものであることが見えてきました。例えば、カーボンニュートラルに向けた世界的な動向により、化石燃料に関する供給投資が減退した中で、化石燃料を中心とする資源大国であるロシアの将来先行き懸念もウクライナ侵攻のトリガーになる、などカーボンニュートラルと地政学的な不安定さが関連した構造的なものであることがだんだんと見えてきました。
この構造的な物価上昇圧力を踏まえると、保険料としては災害が起きたときに被害が出る建物や物にかかるコストの上昇に伴い実際の損害補償額が上昇していきます。
このように、保険料の値上げという1つの現象を踏まえながら、世の中に起きている事と結びつけて考えることも、構造的に多面的に、そして長期的に世の中を見て経営を推進していく上では必要なことではないでしょうか。