インフレや円安の影響で国内企業の経営環境が厳しくなっている中で、値付けをどのように考えていく必要があるでしょうか。
景気指標でも示されているように、企業の原価や費用になる卸売物価指数や輸入物価指数は大幅に上昇しているにも関わらず、売価である消費者物価指数は伸び悩んでいます。
結局、売価に調達コストの上昇を転嫁できなければ、企業経営は厳しくなる一方です。
今回は値付けのタイミングと判断について考えてみたいと思います。
・値付けのタイミングについて
どのようなビジネスにおいても、お客さまに納得いただくためには値上げを行うには相応の大義名分が必要です。しょっちゅう値上げをするわけにもいかないので、値上げをするタイミングの見極めが重要です。
昨今のような、インフレ・円安の局面、さらにロシアのウクライナ侵攻におけるモノや物流の流通の混乱は値上げを行うタイミングとしては適しています。逆に、このタイミングで値上げができなければ企業収益は継続的に悪化していくことは否めません。
もちろん、競合他社をはじめ同じように考えている環境の中で、先に値付けをしてその金額の下をくぐられるという可能性もあります。状況に応じたタイミング判断が必要になります。
・値付けの幅について
実は、インフレ・円安のタイミングでも値付けによって高収益を実現する機会にもなり得ます。(もちろん、外部環境や自社の商品サービスのQPSとのバランスではありますが。)
私自身の実体験として、過去トイレットペーパーなどのパルプ製品を作っている会社の事業再生案件に携わったことがあり、パルプの値上がり時に値上がり割合分の値上げをして最高益になったことがあります。
トイレットペーパーにおけるパルプの原価率は20%程度でした。売上100円に対して、20円程度。粗利は80円(他の原価項目を除いて考えた場合)です。
パルプが1割上がったので売値を10%あげれば、売上が100円→110円に対して、パルプは20円→22円。粗利は88円になり、値上げ前と比べて8円も粗利が増えることになります。
インフレや円安による値上がりの影響を受ける原価項目や費用項目が売上に占める構成比によって、このような売価への転嫁の見え方と、実質的な利益額の増加とのギャップが生まれます。
企業の原材料等のコストアップを売価に転嫁させる際に、売価への転嫁にかかる売上増が調達等のコストアップを上回るため、付加価値(粗利)や営業利益が増加しているということです。
もちろん、原材料の値上がり幅がそのまま売価に転嫁されるようなことばかりではありません。誠実に値付け対応することは必要なことではあります。一方で、いままでの商品サービスのバランス(QPSバランス)の中で価格が抑えられていたのであれば、それを適性値に戻すチャンスでもあります。
値上げ後にも継続してお客さまから選ばれるのであれば、その価格での付加価値をお客さまが感じているということにほかなりません。
・値付けの道理と中長期的な視点について
当たり前ですが、相手の足元を見るような値上げは継続しませんし、長い目で見ればお客さまからの信頼関係を崩すことになりかねません。
トヨタも「トヨタ営業益2.9兆円 前期 国内企業で過去最高」(日経朝刊 5月12日)とあり、円安による収益の向上なども影響していますが、同日に「トヨタの資材費上昇1.45兆円 過去最大、今期は営業益2割減 新車に価格転嫁が焦点 円安続けば利益押し上げ」 (日経朝刊 5月12日)と記事にあるように、無理な値上げをせずに営業利益の減少を許容する可能性を示唆しています。
トヨタの場合には競争環境も厳しくそれほど柔軟に車の価格を値上げするわけにもいかないので、カイゼン活動による原価低減によって補おうとしていますが、今期においては20%営業利益が圧縮されるほどインフレの原価上昇の影響受けるようです。
おそらく、現状における半導体や部品不足などによる生産制限の時期においては、新車において営業利益が十分に取れるような値付けをすることも可能なのだと考えます。
しかしながら、長い目で見れば、生産が復調した際の需要と供給や今後のCASE革命の先行きを踏まえた総合的な経営戦略の観点からも、慎重に値付けを考えているのだと思われます。
・まとめ
現在のインフレ円安・ロシアのウクライナ侵攻による混乱は、値上げをするタイミングとしては妥当。
自社の商品サービスの魅力、強み(QPSの組み合わせ)や、競争環境、中長期的な視点を踏まえてどのような値付けを行うことができるか。
値付け判断の経営力と、それを支える商品サービスの本質的な魅力、競争環境などの外部環境を睨みながら、インフレ・円安の経営環境の中での値付けが短期的に見れば今後の経営の生命線になる。