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「貯蓄から投資」を進めると日本が危うくなる

小宮一慶のモノの見方・考え方
2022.06.14

岸田内閣は「骨太の方針」や「新しい資本主義」を発表しました。人への投資や科学振興、スタートアップ支援、カーボンニュートラル、防衛力強化、少子化対策などはぜひ進めなければならないことは言うまでもありませんが、その中で、「貯蓄から投資へ」ということが、また言われ始めたことには注意が必要です。

 

もちろん、個人が自発的に投資することに全く異論はありませんし、私も株式や投資信託に無理のない範囲で投資をしています。

 

「世帯の41は投資する資金がない」、「お金に対する教育が十分でない」という理由で「貯蓄から投資」に批判的な意見もありますが、私はそれとは別の理由で、「貯蓄から投資」を促すとこの国がおかしくなると思っています。

 

それは、個人金融資産との関係です。日本の個人金融資産は約2000兆円あります。そして、よく言われるように、その半分強が現金や預貯金です。つまり、約1000兆円です。

 

預貯金は銀行に預けられていますが、銀行はその資金で、貸出しを行ったり、国債を購入したりしています。現在日本は1000兆円を超える財政赤字を抱えていますが、その大部分は国債です。その国債を銀行を通じて国民の預貯金が支えているのです。

 

もし、「貯蓄から投資へ」が本格的に進んだら、国債をだれがファイナンスするのでしょうか。

 

現状、9割程度を国内で消化している国債ですが、日本国内で消化できなければ海外に売ればいいという考え方もあるでしょう。しかし、格付けが「A+」程度と、「AAA」から数えて上から5番目程度の格付けの国債を、1%に満たない金利で購入する海外勢は少ないと思います。ましてや円安傾向の中です。海外投資家が買うにはもっと高い金利が必要となりますが、そうなると、日銀や民間銀行などが保有する国債の価格が大幅に下落することとなり膨大な含み損を抱えるとともに、政府の利払いも増加します。もちろん、金利が上がれば国内の景気にも影響が及びます。

 

私は、先にも述べたように、個人が自発的に投資をすることに異論はありませんが、結局、現状の財政事情では、「貯蓄から投資」を促し、その結果多額の資金移動が本当に起こったら、大変なことになる可能性があると言いたいのです。膨大な財政赤字が問題で、それがなければ、「貯蓄から投資」を促すことに問題はないのです。

 

一方、今回の政府方針で、「2025年にプライマリーバランスを均衡させる」ことに関してトーンが落ちたことは大きな憂慮材料です。先ほども説明したように、「貯蓄から投資」が悪いわけではなく、この財政事情では、それを行うことはできないということを理解しなければならないのです。膨大な財政赤字のせいで、政策のフリーハンド(自由度)が大きく損なわれているのです。国民の収入を増やすこととともに、財政を適正に戻す努力なしでは、いつまでたってもこの国の改革は進められないのです。


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